忙しい裏手【兎佐伎翔緒】 ページ9
舞台裏はいつにも増して騒がしく、バタバタしていた。舞台上ではカッと光るライトに照らされて、部長こと遊磨せんぱいが良く通る綺麗な声で演説をしていた。
「遊磨せんぱい、さっすがぁ…。まあでも、通常公演とかよりは全然人少ないから慣れっこって感じかな〜。」
新学期になって増えた大道具の掃除を引き続いてしつつ、今日の仮入部のため、可愛い後輩ちゃんたちの舞台裏見学、…汚いままじゃ見せられっこないし、段ボールなどなど…片付けていく。
「おいこら、うさと〜？口じゃなくて手ぇ動かしてよ〜。全然片付かないし…。」
「へっ！？い、いやいや。ちゃんと仕事してるよ〜！ほらほらタナタナこそ、ファンの子たちの相手ばっかりしてないで、さっさと衣装着替えてよね〜！」
「ちゃんと仕事してる、っていうのはそのカラの段ボールを小物の棚に入れることなんですか〜？…私は良いんだよ、良い感じのロリショタがいそうだし、見物も兼ねて…！！」
「うそっ！？…やば、カラだった…。って全然良くないでしょ、今日は仮入部、一応一個だけ演目やる予定なんだから！村娘Bの衣装、常助せんぱいが頑張って作ってくれたんだよ！？ほらはやく〜！」
「わかったわかった。それじゃ、行ってくるわ。」
「はいはい、いってらっしゃ〜い！」
そんな風に駄弁る相手は、田中田奈。あだ名はタナタナ。おれの相棒で幼馴染。ちょっと難のある性格ではあるけど…まあいいやつ。今日の仮入部では短めの王道アンデルセン系のお話を一つ、部室に取り付けられた簡易的とはいえ結構しっかりした舞台で演じる。それと、発声練習やら演技の練習、舞台裏ツアーなどなど…。新入生ちゃんたちに見てもらう予定だ。
それで、おれはこの後その演目でヒロインの友人、まあギリギリ名前のある、準ヒロイン役をやるんだけど…。正直忙しすぎて舞台裏だけで手いっぱい。
「とびー、次お前のメイクだけど、大丈夫そうか〜？」
「えっうそっ！！ちょっと待って常助せんぱ〜い！段ボール片付けたらすぐ行くから〜！」
段ボールを畳んで重ね、ダッシュでせんぱいのところまで向かった。今のままだと演目の時間が無くなりそうな勢いだ。裏が忙しいのを分かってくれているのか、遊磨せんぱいが時間を稼いでくれている。遊磨せんぱいに目配せすると、「まかせとけ」とでも言うのかと思うくらいに頼れるウインクが返ってきた。
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