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和
「かーず、」
優しい声に起こされると、父さんが帰ってきてたみたいで。慌てて見たテレビの前には3人の姿がなくなっていて、ゾワっとした。
そんな様子を見てか笑った父さんが「おいでー！」と呼ぶと奥からバタバタ聞こえてきた。
あ、3人ともいる。
「お留守番ありがとね。毛布もかけてくれて。
お腹空いてると思って今日は夜ご飯にお弁当買ってきたよ。」
「うん。え、夜？」
「ぐっすりだったからね。今6時半。」
そんなに寝たか。笑
テーブルに箸とお弁当を並べてるのは智兄で。
おかえり、と言えば、ただいま、と笑った。
みんなで椅子に座って、父さんは翔ちゃんをマーク。
やっぱり翔ちゃんは首を振るだけ。
「かず？」
急に立ち上がった僕にみんながびっくりしてるけど、
冷蔵庫を開けて小鉢を一つ持って帰る。
「それなにー？」
「みかんゼリー、」
「おー、和が作ったんか！」
「そう。翔ちゃん食べれるかなって。」
目の前に出された透明とオレンジのゼリーを見つめる翔ちゃんは興味を持ってくれたみたい。
スプーンを渡してあげると、少し迷ってゼリーに差し込んだ。そして、自分から口を開いて。
呆気にとられている僕らを置いてパクッと食べた。
みんながほっと息をつく。
「そっかぁ。みかんゼリーか。うん。そうだね。」
目を潤ませて笑う父さんは気づいたみたい。
母さんが風邪を引くと、父さんが決まってみかんゼリーを買ってきた。
風邪が治った母さんがお返しに、って作ってくれるのもみかんゼリーだった。
売ってるのより柔らかいぷるんとした母さんのゼリーが大好きで、一緒に作ったこともある。
母さんがいなくなってからはもちろんみかんゼリーは作られないし、父さんもなんとなく買ってこなかったんだと思う。
翔ちゃんは母さん似だから。
みかんゼリーは特別みたい。
「かず、おいし。」
ふにっと笑ってくれた翔ちゃんがやっぱり母さんの笑顔に似てて、胸がしくしく痛むけど、それ以上に嬉しくて。
「冷蔵庫にまだあるよ。なくなったらまた作ってあげる。」
そう言うと「ありがとう。」と言って、また笑う。
この日から、翔ちゃんが体調悪くてもおいしいと食べられるものは唯一みかんゼリーになった。
ーfin
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作者名：すす | 作成日時：2020年11月15日 18時
