5 ページ6
土砂降りの雨の中、錆び付いた鉄の匂いが鼻に着く。
何故か小さい私は泣いていて、古びた建物の隅で雨宿りをしている。冷たい風から守るように体をできるだけ小さく折り畳んで目から次々に流れる涙をひたすらに拭っていた。
「大丈夫？」
子供特有の舌っ足らずな、やけに明るい声が響く。声変わりが済んでいない男児のような声でもあるし、可愛らしく活発な女の子の声にも思えた。
「…さぁ、＿＿＿＿」
姿はぼんやりとしか見えない。私と同じくらいの小さな人。傘を差し出して土砂降りの中一人で飛び出した。
「あ、待って！」
手を必死に伸ばしたが、その子は強い雨の幕でもう姿は見えなかった。
＊＊＊＊
＿＿＿ここは、どこ？
体が焼けるように熱い、ところどころ痛いのはなんでなの。
「勝己、出久くん、しょーとくん」
目を開けようとした時、憎ったらしい甘い声が響いた。開きかけた目を咄嗟に瞑る。
＿＿3人がここに居るの？待って、状況が上手く飲み込めない。
朦朧とする頭で何とか考える。腕を微かに動かすと何か細い管が動いた。口に付けてあるのは…酸素マスク？
ああ、そういえばあの時七彩に突き落とされたんだっけ。左足と右腕が思うように動かない。後遺症にならないといいけど。
「なんで七彩お姉ちゃんが…」
出久の上擦った声が小さく聞こえた。パイプ椅子の動く音がする。近くにいた七彩が動いたのだろう。
「アメリカから帰ってきたの」
「いや、そうじゃなくて…上条さんと七彩お姉ちゃんは友達…だったの？」
＿＿どうしよう…っ、まずい。
体が跳ね上がりそうな衝動を抑えて必死に頭を捻る。ああ、本当にどうしよう。今までのことが全て水の泡になってしまう。
「…え？だってこの子はAだよ。私の妹の金田…ああ今は上条Aだっけ？」
瞬間、この場の空気が変わったのが目をつぶっている私でもわかった。張り詰めるような、皮膚に冷たい針が刺さるような感覚に身震いした。絶対、みんな私の事を見てる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 832人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
トオ(プロフ) - あの、もう一気読みしました…好きすぎて……こんな作品作れるなんて凄くないですか？めちゃくちゃ尊敬してます… (2022年8月21日 10時) (
レス) @page18 id: 316392659a (このIDを非表示/違反報告)
43yomi1(プロフ) - あ、滅茶苦茶好きです…！ (2021年4月18日 5時) (レス) id: 674eb44c7b (このIDを非表示/違反報告)
*紅_あか* - わわわ！わー！！好きです！！！すっごい好きです！！！！あの…なんて言うんだろう…表現の仕方？とストーリーと夢主の思考？を行動に写して、わくわく(…かな？)してしまうほど好きです！！！！！ (2021年4月8日 20時) (レス) id: d344c61285 (このIDを非表示/違反報告)
春風 恋(プロフ) - みかさん» ひゃーっっ、ありがとうございます！！皆さんへどんでん返しできたかな？とニマニマしながら執筆してます！笑 (2021年4月7日 13時) (レス) id: 41a6911d5c (このIDを非表示/違反報告)
春風 恋(プロフ) - チヒロさん» 分かりますかっこいいですよね切島くん(最推し) (2021年4月7日 13時) (レス) id: 41a6911d5c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：春風 恋
| 作者ホームページ：http://urana
作成日時：2021年3月27日 13時
