色戀、召しませ。 (ページ9)

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彼はまた、ニコッと笑ったけど「連絡先、聞いても大丈夫？」と急に真顔になった。

「時間とか忘れちゃったから詳しいこと連絡するために……」

「は、はい、じゃあ」

私は携帯を取り出してQRコードを画面に表示させた。

「あっ、そっち派？」

「他に何派があるんですか？」

「あのー、ほら、ふるやつ」

「私、アレで上手くいったことないんですよね………」

「えー？それ本体の問題じゃない？」

私の携帯に自分の携帯をかざしたあと、彼は画面を見ながら「A………」と名前を呼んだ。

「初めて知った、名前」

「そっか………そうですよね」

私も笑いながら携帯の画面を確かめて「隆二…………さん」と口にした。

「隆二で良いよ。どうせ普段呼び捨てでしょ？」

「いえ、呼び捨ては……………ってアイコンの自己主張激しいですね」

「あー、そういう風に言うんだったら変えるよ」

「良いです良いです！そんなつもりじゃなくて！」

「変えよー」

隆二さんは、拗ねたみたいに口を尖らして私は可笑しくなる。

信号が青に変わって、歩き出そうとした私に隆二さんは「あっ」と声をかけた。

「俺こっちなんだ」

「え…………」

自分が渡らない横断歩道の信号を待ってくれてたんだ………。

私は隆二さんをジーっと見た。

気になる事や、物や、人をジーっと見みるのは辞めなさいと幼い頃から母に注意されていたのに今も直らない。

「信号、点滅してる」

「あ！えっと、じゃあ！おやすみなさい！」

「おやすみ」

横断歩道を走って渡った。

渡りきって振り返ったら隆二さんがこちらに手を振っていた。

私も大きく手を振って、慌てて背を向けた。

理由は分からないけど、涙が出てきたから。

そのときの涙の理由は未だに分からない。

分からないけど、今思い出しても涙が出てくる。

2月某日、深夜3時頃。

私の恋は、私が知らない間にスタートを切った。