色戀、召しませ。 (ページ7)

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今思えば彼との関係が動き出したのは、あの日からだった気がする。

その日の仕事帰り、家の近所のCD屋に入った。

深夜までやっているので次の日が休みの時は大抵フラッと寄って新譜をチェックしたり、ついでにDVDを借りたりする。

「あった………」

欲しかったCDを棚から取ってレジに向かう途中、視聴の機械に気になるアーティストのポップが貼ってあった。

迷わずヘッドホンを耳に当てて、暫く聞き入った。

…………良いなぁ、買おうかな

うちのCDの棚パンパンだけどな………と買おうかどうか迷ってる時、

目の前の通路から、彼が歩いてきて…………

私はこのとき、彼と生活圏が同じであることを確信した。

しっかり目が合ったのは、私が見つめていたからか彼が見ていたからか。

彼はまた、私に微笑みかけた。

今度はちっとも不思議な感じはしなかった。

それが逆に不思議。

停止ボタンを押してヘッドホンを外した私に「よく会いますよね」と彼は笑いながら言った。

「本当に。ご自宅近いんですか？」

尋ねてから、これは失礼な質問だったかなとちょっと後悔。

「あの、あそこの。見えます？」

彼は腰を屈めて店の窓の外を指差した。

「ん？」

「ほら、あの一番高いマンションの隣の」

「あ！はいはい！」

自然と彼と同じように腰を屈める体勢になった私の耳に、大好きな声が聞こえてきた。

「ジャスティンティンバーレイク、好きなんですか？」

「あっ」

と、彼は自分の首にかけたヘッドホンを触る仕草をした。

「はい。え、お好きですか？」

「とっても」

「良いっすよねー」

「はーい、良いっす」

そういう系統の音楽も聴くんだな、と思いながらも洋楽の趣味が合う人が現れて私はとてもテンションが上がっていた。

都会で同郷の人に会うと、やたら興奮するあれと同じ。