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幸い、居酒屋まですぐの距離で私はまた走った。
「早っ!3分位で来たじゃん!」
秀香とゆかりの間に座って、私は何事もなかったみたいに取り合えずお水を一杯もらう。
「走ってきちゃったよー」
「私たちに会いたくて?」
ゆかりの問いに私は「そうだよ」と答えた。
本当にそうだったから。
皮肉にも、お店の有線から彼の歌声が聞こえてきた。
「今ねぇ、Aの中学生のころの話聞いてたんだよ。よ!年上キラー!」
「やめてよー!なにそれ?」
努めて明るく振る舞う私の携帯から通知音がして
私はなにも考えずに画面を見た。
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“ありがとう”
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隆二さんからの“ありがとう”の五文字が“さようなら”に見えて
私は堪えきれずにワッと泣き出してしまった。
子供みたいに文字通りわんわんと。
「何!何!ちょっと!どうした!?」
「秀香が年上キラー!とか言うからじゃないの!?」
「え!?そうなの!?」
私はボロボロ泣きながら携帯をカウンターに置いた。
秀香とゆかりが同時に覗きこんで、同時に大きく息を飲み込んだのが分かった。
「おじさん!有線変えて!早く!」
「え?有線?」
「早く!」
ゆかりがおじさんを急かして、秀香は私の肩を抱いてくれた。
隆二さんを好きでいることは辛い
痛くてやばいファンのままでも辛い
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「私、あの人のこと嫌いになりたい………」
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後に、ゆかりはこの夜のことを振り返って「Aは彼を嫌いになれないなと思った」と言った。
嫌いになろうとしている人を「あの人」とは呼ばないと。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2016年1月4日 20時