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「おじさん、ぬる燗」
そんなの飲んでるからバリキャリになっちゃうんだぞ!
と思いながら私も同じのを頼んだ。
「ちょっとトイレ行ってくる」
私は席を立って店に一つしかないトイレに向かった。
男女兼用なんて今時珍しい。
ドアノブをひねったら半分くらいしか回らなくて、誰か入ってるんだなと私は一歩引いて空くのを待った。
店内はカウンターが6席、小上がりに4卓あって、昔懐かしい衝立障子で仕切られている。
どこに発注したのか知らないけど随分背の高い衝立で、お客さんが居るのか居ないのかも分からない。
私だったらアレを格子にして───
考えてるうちにトイレからサラリーマンが出てきた。
「あらー、タイプ。一緒に飲む?」
危うい呂律で誘われて「来週飲みましょう!」と返して慌ててトイレに入った。
───あしらい方ばっかり覚えて、嫌になる。
ため息と一緒にドアノブをひねって個室から出て私はまたも一歩引いた。
臣くんが目の前に立っていたからだ。
しっかり目は合ったけど彼はすぐに目を伏せた。
半年以上前に暗がりで少し話しただけの相手を流石に覚えているわけがない。
私は席に戻って、嫌にドキッとした心臓をおさめる為に、ぬる燗を一気に煽った。
何でこんな汚い居酒屋に臣くんが居るのか。
この辺りに住んでいる以上、いつかどこかで会ってしまうだろうと思ってはいたけど
どうして、この店なんだろ。
私は小上がりの方をチラッと振り返った。
床に並べられた靴は3足。
トイレに居る臣くんの分を足しても、今お店に居るのは4人。
靴の中に隆二さんが履いてそうな物はなくて、私はまた胸を撫で下ろす。
「知り合い?」
「え?」
「トイレ待ってた人、ほらテレビ出てる人じゃん」
秀香が後ろを向いたのを私は肩を掴んで前に戻した。
「知り合いじゃないよ」
「ふーん」
「……………興味ある?」
「ない。私、ブサ専だから」
そう言えばそうだった。
「何かさ…………ウテウテって感じしない?」
私の言葉に秀香はパカッと口を開けた。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2016年1月4日 20時