色戀、召しませ。 (ページ1)

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Encounter. ページ1

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「はいこれ。約束のやつ」

「ありがとう！」

腐れ縁、という言葉は使いたくないけど目の前に座って私にチケットを渡してくれたゆかりとは、小学校からの親友。

お互い親の転勤だったり進学だったりで離れ離れになった時期もあったけど

今はこうして東京のスモッグの空の下、夢見た仕事に就いている。

港が見えたあの教室の窓はもうないけれど、机を並べたこの子は今も私の前の席。

「ねぇこれ………イ？インビテーション？って書いてあるよ」

「当たり前じゃん。それこういう業界の人に配られるチケットだもん」

「え、良いの？」

「良いよー。IDチェックなんてされないから大丈夫だよ」

これをコネと言わず何と言おう。

この子が音楽業界で働いてるおかげで、好きなアーティストのライブを高確率で観ることが出来ている。

「じゃあお礼で今日はおごるよ」

「毎回悪いねー」

私はそのとき、数日後に迫った小さなホールでのライブに胸を高鳴らせていた。

そのライブに行く前には、仕事場の人に渡すバレンタインのチョコを買いに行かなきゃいけないなぁとか

午前中には終了が迫ってる美術展にも行かなきゃいけないなぁとか

そんなことばっかりで、彼と出会ってしまうことなんて何にも考えてなかった。