妖たちと暮らす家６

248:センラside ページ27

「っ、、、」

「センラ？どうした？」

「なんか、、、」

突然盃を落とした俺にうらたんが声を掛けてくれたけど上手く答えられない。
ドクン、と大きく脈打つ様な身体の衝撃で手を離してしまった盃は逆さまに落ちて割れてしまった。

「おい、センラ？大丈夫かよ」

ドクドクと早くなり始めた自分の鼓動で声がよく聞こえない。
生き物になったかの様に心臓が突然動き出している気がする。

(なんで、、、)

力が上手く入らない。
服の上から心臓を掴むように握った手を開く事が出来ない。
息もしにくい。
座ったまま前屈みになっていくのがわかる。
心無しか目の奥が熱い。
落ち着けと言い聞かせても身体が言うことを聞いてくれない。

「センラ！センラ！」

「どないしたん？」

呼びかけ続けるうらたんと坂田の声は何となく聞こえるのに声が出せない。

「、、、センラ？」

「センラさん？」

志麻くんと天月くんの声もする。
あっちで話してくると離れたはずなのに。
耳鳴りのように聞こえるみんなの声を聞きながら思うのは、何かあったんじゃないかと言う事だけ。

(Aちゃん...？)

血を分けて契約した人間と妖は共鳴する。
怒りや憎しみ、嫉み。
負の念の方が遥かに共鳴しやすい。
その人間の憎悪の気持ちを餌に俺達は妖力を上げていくから。
でも、Aちゃんとの契約は俺が勝手にした事。
あの子には人を憎む気持ちや嫉む気持ちなんて一緒に生活してきて微塵も感じられなかった。
この早くなった鼓動に心当たりがあるとすれば、恐怖。
大概人間との契約は主の危機を護る事も含められることが多い。
権力者はよく命を狙われる事が多かったから殺されそうになるとよく今の様に鼓動は早くなり危機を知らされた。
だから、それしか考えられない。
上司に怒られて泣いて帰ってきても俺に共鳴する程の強い気持ちは持っていなかった。

怖い思いを、今してるんじゃないか。

「っ、、、帰る」

「え？何、聞こえない」

思っていたより声が出ていなかったらしい。
ごめん、もう1回言ってと肩を揺さぶるうらたんの顔を見て出来るだけ息を整えた。

「かえ、る」

「お前、目が、、、」

見開かれたうらたんの目。
俺は今、どんな顔をしてるんやろ。
そんな事はどうでもいい。

(はやく)

早く帰りたい。
やっぱり一人にするんじゃなかった。
何か怖い思いをしているなら早く抱き締めてあげないと。


俺が泣き虫にしてしまったあの子を、一人で泣かせる訳にはいかない。

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