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「相変わらずやなぁ」
「大丈夫?」
「大丈夫。Aちゃんこそ大丈夫?」
通勤ラッシュと重なった帰りの電車は前と同じように混み合っている。
端に寄せてくれた私の身体は彼に緩く守られていて若干苦しさはあるものの一人の時と大きく違う。
どこか寄る?と小さな声で話す満員の電車は明日から二連休もあって楽しさまで感じた。
何駅か過ぎて少し人混みがマシになった車内で彼を見上げると目が合って長い指が優しく頬を撫でた。
口の端が上がったのを自分でわかる。
それを見て彼も黙ったまま目を細めた。
「うわぁ、めっちゃ降ってるやん」
「凄いねぇ、、、」
ザー、と音のする雨の中足早に帰る人を横目に傘の準備をする。
「荷物濡れるけど大丈夫なん?」
「中身は濡れないし大丈夫」
キャリーを気にしてくれた彼がじゃあ大丈夫かなと片手に持って傘をさして歩き始めた。
傘に落ちる雨音が大きく聞こえる。
傘をさす彼に寄り添って腕を組むと外でこんなにくっついて歩けて嬉しいと笑顔の彼が私を見下ろしていた。
私も嬉しい。
ただ雨の中歩いているだけなのに特別に感じる。
大きな雨の音で周りにはきっと私達の会話なんて聞こえない。
「迎えに来てくれて嬉しい。ありがとう」
「早く会いたかっただけやから。こんなに降るとは思ってなかったんやけどな」
手を繋げなくて残念、と少しむくれる彼に確かにと頷くと早く帰っていちゃいちゃしようと囁かれて意地悪な彼の微笑みに顔が赤くなるのがわかった。
「え!?ごめんね、ほんとごめん」
「何が?」
マンションのエントランスに着いて初めて気付いた。
きょとんとしながら傘の雫を払う彼の片方の肩は服の色が変わる程濡れている。
私は全く濡れてないのに。
申し訳なさで胸がいっぱいになる。
「帰って先にお風呂入ろう?」
夏とはいえこんなに濡れてしまっては風に当たれば冷えてしまう。
肩に持っていたハンカチを当てると彼は私の手首を優しく包んだ。
「俺は風邪なんか引かへんから大丈夫やって」
心配しすぎやでと笑って頭を撫でてくれるけど、髪から滴る水滴に随分と濡れてしまった事がわかる。
「俺のわがままで雨の中帰らせたんやから」
だからそんな顔しやんといてと言う優しい声色に頷くと帰ろうと私の手を引いた。
エレベーターにはマンションの住人もいてこんばんはと挨拶をして乗り込むと上の階らしく大人しく乗っていたけど彼は少し拗ねた顔をしていた。
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あーりん(プロフ) - 折_こたぬきさん» わー!貴重な男性コメントありがとうございます!!しかもキュンキュンして頂けているとは、、、すごく嬉しいです!!次のお話でも宜しくお願い致します! (2019年8月8日 3時) (レス) id: 509e058229 (このIDを非表示/違反報告)
折_こたぬき - 初コメ失礼します!初投稿から男子1人でずっとキュンキュンさせてもらってます!これからも更新頑張ってください! (2019年8月8日 2時) (レス) id: 5fe8b549a6 (このIDを非表示/違反報告)
あーりん(プロフ) - ☆レム☆さん» 大好きと言って頂けて嬉しいです( ;__; )!長くお付き合い頂いてありがとうございます!もちろんこちらもフォロバさせて頂くので宜しくお願い致します! (2019年8月8日 0時) (レス) id: 509e058229 (このIDを非表示/違反報告)
☆レム☆(プロフ) - またよろしければTwitterのほう、フォローさせていただいてもよろしいでしょうか?長くなってしまい申し訳ありません。これからもずっと応援しております(*^^*) (2019年8月7日 23時) (レス) id: d6601494c3 (このIDを非表示/違反報告)
☆レム☆(プロフ) - はじめまして、コメント失礼いたします。投稿当初からずっと読ませていただいております。読む度に幸せな気持ちになれるこの作品が本当に大好きです(*^^*)無理はせず、あーりん様のペースで更新なさってくださいね!これからも楽しみにしております! (2019年8月7日 23時) (レス) id: d6601494c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あーりん | 作成日時:2019年7月14日 15時