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「行きたくない...」
「もう出やな間に合わへんくなるで」
ほら、頑張ってと玄関でキャリーバッグを握らされて毎日あんなに出勤前はさみしいさみしいとうるさいのに今日はすんなり送り出そうとされている。
度々化粧をする手が行きたくなくて止まるのを励まされながらなんとか化粧を終わらせた。
それを見てからか彼は頑張ろうと背中を押す言葉しか言わなかった。
(もう行かなきゃいけないんだけど...)
「わかってるもん」
でも、行きたくない。
泊まりの仕事なんて入社して片手で優に収まる程度しか行ったことがない。
その上同僚も仲のいい先輩がいるわけでもないこの出張は苦でしかなかった。
行かなきゃいけないけど行きたくないと不貞腐れると優しく宥めてくれる彼に駄々を捏ねたい気持ちになってしまう。
「もう行く...」
「ん。帰ってくるの、楽しみに待ってるな?」
「いってきます」
「いってらっしゃい」
いつものように屈んだ彼にキスをされてドアノブに触れるとAちゃんと声が掛かった。
「寝られへんかったら電話してね」
振り返って見た彼の顔は優しくて、これは絶対電話する事になるだろうなぁと思いながら頷いて重い足取りで家を出た。
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(帰りたい)
もう何回目の帰りたいだろ、と自嘲気味に窓の外を見ても目の前には緑しか広がっていない。
新幹線を降りて見た駅前はそれなりに栄えていたけれど社用車のバスを乗って着いた場所は本当に山の中だった。
資料作りのため仕事をサボってはいられない。
それでも休憩やふとした時にどうしても意識は帰りたい思いでいっぱいになってしまっていた。
今も一人暮らしだったらこんなこと、あまり思わなかったんだろうなと思う。
前に研修で泊まりだった時は無かった気持ち。
なんとか意識を仕事に集中させてそれなりに忙しく終わらせた仕事の後、バスでまた長い道程を戻ってホテルに着いた。
荷物を置いてみんなで夕食を食べに行く為ロビーに集合と言われ入った部屋でようやく一息つくことが出来た。
(センラ何してるかな)
広いとは言えない部屋でベッドに座りぼーっと彼の事を考える。
時間が無いけど声が聞きたくて電話しようかなと思っていたのに、壁が薄いのか恐らく向こうも電話しているんだろう隣の部屋の上司の声が筒抜けに聞こえてくる。
これじゃ後で何を言われるかわからないから電話が出来ない。
いつの間に彼の存在がこんなに大きくなっていたんだろう。
(声聞きたかったな)
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あーりん(プロフ) - 折_こたぬきさん» わー!貴重な男性コメントありがとうございます!!しかもキュンキュンして頂けているとは、、、すごく嬉しいです!!次のお話でも宜しくお願い致します! (2019年8月8日 3時) (レス) id: 509e058229 (このIDを非表示/違反報告)
折_こたぬき - 初コメ失礼します!初投稿から男子1人でずっとキュンキュンさせてもらってます!これからも更新頑張ってください! (2019年8月8日 2時) (レス) id: 5fe8b549a6 (このIDを非表示/違反報告)
あーりん(プロフ) - ☆レム☆さん» 大好きと言って頂けて嬉しいです( ;__; )!長くお付き合い頂いてありがとうございます!もちろんこちらもフォロバさせて頂くので宜しくお願い致します! (2019年8月8日 0時) (レス) id: 509e058229 (このIDを非表示/違反報告)
☆レム☆(プロフ) - またよろしければTwitterのほう、フォローさせていただいてもよろしいでしょうか?長くなってしまい申し訳ありません。これからもずっと応援しております(*^^*) (2019年8月7日 23時) (レス) id: d6601494c3 (このIDを非表示/違反報告)
☆レム☆(プロフ) - はじめまして、コメント失礼いたします。投稿当初からずっと読ませていただいております。読む度に幸せな気持ちになれるこの作品が本当に大好きです(*^^*)無理はせず、あーりん様のペースで更新なさってくださいね!これからも楽しみにしております! (2019年8月7日 23時) (レス) id: d6601494c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あーりん | 作成日時:2019年7月14日 15時