鎮魂 ページ39
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「……宿儺の声は、聞こえる?」
『……いいえ』
「そうか」
……霊安室からの帰り。五条先生と共に薄暗い廊下を歩きながら、私は下を俯いたまま彼の問いに答える。
泣きじゃくったために瞼はすっかり腫れていて、視界すらぼんやりと歪んでしまっている。
少年院にて特級相当の呪霊と対峙した悠仁は、自らの力不足から宿儺を呼び出したらしい。
しかし、上手く代われなかった。だからあいつに体を乗っ取られたまま、好き勝手な理由で心臓を抜かれて、そのまま……。
悠仁が命を捨てる選択をしなければ伏黒くんが危なかったという話を聞いてから、少し安堵した私がいたのは不思議だった。
ただあいつの意思で死を選んだのだという事実に、ほっとしたのかもしれない。
「悠仁のこと、硝子に任せると言ったらしいね」
『……薄情だって、思ってますか』
「まさか。弟思いの良いお姉さんだよ、君は」
五条先生の言葉に、ふと考える。
あいつの安らかな顔を見て思ったのだ。その死を私一人が受け止めるだけでは、ダメなのかもしれないと。
宿儺の器となった悠仁は、呪術界において異質な存在だ。
きっとその体を調べれば、少しでも何かの爪痕を後世に残すことができるかもしれない。
そう考えた時、硝子さんになら安心して任せることができると思った。
『私、今まで呪えれば良いって思ってました』
「……宿儺のこと?」
『はい』
無理だって分かっていたから。私がどう足掻こうが、あいつの存在を消すことができないと分かっていた。
だから私は、その先に進むことをやめていたのだ。
実際、今までの私には「両面宿儺」という存在がどこまで邪悪なものなのか理解できていなかったのだろう。
……けれど、悠仁が死んでやっと気が付いた。
『人生でこんなに誰かを憎たらしく思ったの、初めてかもしれない。それくらい、私の中の憎悪が“ヤツ”を殺せと言っているんです』
「……その顔、本気だね」
『……もちろん。生半可な気持ちでは、悠仁に見せる顔がありませんから』
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いか焼き - さ い こ お です!この話マジですこ… (2022年7月4日 2時) (レス) @page50 id: 5bb1efd8a4 (このIDを非表示/違反報告)
すみれちゃん - 続編決定…!ありがとうございます泣 (2022年2月27日 1時) (レス) @page50 id: 1871179020 (このIDを非表示/違反報告)
AG2(プロフ) - タイトルに目を惹かれ読んでみたらめちゃくちゃ面白かったです……!今後どうなるかとても楽しみ……!更新頑張ってください!! (2022年2月8日 7時) (レス) id: 382d4af167 (このIDを非表示/違反報告)
ハリネコ - 更新してくださる事が嬉しいですっ!これからも、作者さんのペースで頑張って下さい! (2022年2月3日 23時) (レス) @page27 id: 690aee62a7 (このIDを非表示/違反報告)
mithukoaaa0306(プロフ) - 面白すぎて一気に読んでしまいました! (2022年1月30日 2時) (レス) @page8 id: 96b8b42efc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:瀛 | 作成日時:2022年1月29日 15時