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二兎追うもの ページ29

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それからしばらく芝生の上でゴロゴロした後、やっとのことで立ち上がりながら私と狗巻くんは稽古を始めた。


加えて、暇つぶしということで本来一年の担任である五条先生も私達の様子を見学している。


夜蛾学長に教えてもらった通りの拳を、間合いを詰めながら狗巻くんのみぞおちあたりをめがけて繰り出す。

とはいえ本当に入れるわけじゃない。実際私がそんな加減をしなくても、狗巻くんは素早いからまだまだ素人の私には到底追いつけないんだけど。






『っ……ほんとすばしっこいッ!』


「すじこ〜」


「こらAー、昂っても呪力は一定だよ」


『分かってますよッ……!』






狗巻くんの背を追いながら、私は茶々を入れてくる五条先生に向けてしかめっ面のまま叫んだ。


正直今の私には、他に気を取られている暇なんてない。

とにかく狗巻くんの動きを捉えて、彼に一回でも握った拳を当てないと。






「いくら!」


『えっ、ちょっとッ……!!』






そんなことを考えているうちにも私の行動は完全に彼に読まれていて、繰り出した拳をいとも簡単に避けられた挙句、彼は私の腕を掴み軽々と私の体を引っ張った。


もちろん、バランスを崩した私は地べたへと体を倒してしまう。






『痛たた……やっぱり全然ダメだなあ』


「おかか?」


『ああ、ごめんね……ありがとう』





狗巻くんが差し出してくれた手を握りながら、転んだ体を起こす。


例のダサいジャージが嫌で先週末に買い換えた黒色のスポーツウェアには、所々土ぼこりがついて汚れている。

私はそれを手で軽く払うようにしながら、ゆっくりと立ち上がった。






「へえ、随分進歩したね〜」


『まだまだですよ……結局狗巻くんには触れられもしなかったし』


「Aは真希や悠仁みたいにずば抜けた運動能力があるわけじゃないし、仕方ないよ。それにしてはよく動けてる方だと思うけどね」


「高菜!」






先生と狗巻くんからかけられた励ましの言葉に、私は少し安堵したように微笑んだ。



同時に流れてきたふんわりとした柔らかい風は、私の汗ばんだ頬を気持ち良く撫でる。



……根詰めているだけでは、何も変わらない。それはここ数日で良く分かったこと。


それでもいつかは実践で役に立てるよう、足を引っ張らないくらいには頑張らないといけないな。







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いか焼き - さ い こ お です!この話マジですこ… (2022年7月4日 2時) (レス) @page50 id: 5bb1efd8a4 (このIDを非表示/違反報告)
すみれちゃん - 続編決定…!ありがとうございます泣 (2022年2月27日 1時) (レス) @page50 id: 1871179020 (このIDを非表示/違反報告)
AG2(プロフ) - タイトルに目を惹かれ読んでみたらめちゃくちゃ面白かったです……!今後どうなるかとても楽しみ……!更新頑張ってください!! (2022年2月8日 7時) (レス) id: 382d4af167 (このIDを非表示/違反報告)
ハリネコ - 更新してくださる事が嬉しいですっ!これからも、作者さんのペースで頑張って下さい! (2022年2月3日 23時) (レス) @page27 id: 690aee62a7 (このIDを非表示/違反報告)
mithukoaaa0306(プロフ) - 面白すぎて一気に読んでしまいました! (2022年1月30日 2時) (レス) @page8 id: 96b8b42efc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2022年1月29日 15時

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