百鬼CP小説 (ページ11)

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煙草の煙とあの頃にページ11

薄紫色の煙がポッポっと輪を描く。

「…鬼姫」
「あぁ、おはよ」

鼻の奥にくすむ煙草の匂いが手目を覚まさせようと記憶を掠めた。
それを振り払うように息を吐いた。

「どうした？それ」

真っ赤に染まった腕。

「…なんでもないよ。お風呂入ってくる。」

鬼姫に傷跡が見えないから一見かえり血のようだが嗅いだことのあるこの匂いは間違いなく鬼姫のものだった。

ぱっと煙草を捨てると素足のまますり潰した。
ボンヤリと何を考えているのか分からない目で俺を1目とも見ず背を向ける。

手を伸ばしかけるが匂いがまだ残っている気がして中途半端な位置で手が止まった。

ーー

「……ハッ…は…」

草が、ぬかるんだ泥が足をさらっていく。

「あっ…」

どしゃ、と前のめりに倒れ込む。

「…かえ…らなきゃ」

泥まみれの身体をゆっくり起こし思い足を引きずって進む。
視界の端に木造の家を捉えるとふ、と息を吐いた。

「…ただいま」

「おぉ、大分遅っ…は？おい、何があった？」

うるさい。
今は全ての音が不快だった。

「………」

無言のままで風呂場へ向かう。

「ちょ、待てって。」

追うように入ってくるのも今は構えない。
いつもなら巫山戯た言葉で笑ったことさえ今は言えない。

「…おに…ひめ？」

「……」
少し怯えた声が聞こえた。

ああ…ごめん。

そう心の中で呟いて戸を閉めた。

消えない。
痛い。

シャワーの音にも負けないぐらいの大きさで体は痛いと叫んだ。

「大丈夫…大丈夫…僕は…」

言い聞かせながらソ、と胸を撫でた。

ーー

「……」

静かだ。
俺は…あいつを怒らせたのだろうか…

分からない。
特に最近は傷が多いし煙草の本数も増えた。
匂いが消えない…

「…………ちょっと、吸ってるから」

「!?…あ…あぁ。」

いつの間に上がったのか溜息一つとそれだけ残し外へ出てしまった。

匂いは嫌いだけど1人にしてしまったらいけない気がして俺も外へ出た。

戸を開けた。

そこに鬼姫は立っていなかった。

「……っ！」

半ば泣きそうになりながら煙草の煙と一緒に嫌な記憶を振り払う。

「…どうしたの？」

「…あ……」

どっと溢れる安心感。
声を辿ると驚いたようにこちらを見上げる鬼姫がしゃがみこんでいた。

「ん？」

優しく首を傾げる。

「なんでもない。」

臭い。
煙草の匂いがする。
けど、まだここにいると確認するように抱きしめた。
「そっか…」

慰めるように背を撫でながら鬼姫は少し泣きそうな声で戻ろうと言った。