隠したい未確認な想い―【封獣ぬえ】[前編] ページ8
正体がわからないままの方が良かったりすることもあるし、正体が分かった方が良い事もある。しかし、その正体が分かってしまうと、一気に興味が失せてしまうことこそある。
そう、分からないままの方が良い事だって―。
「うお〜…猫だぁ…」
道無き道を歩いていた少女―Aは黒猫を見つけ、頭を撫でる。しばらく撫でているうちに黒猫は喉を鳴らし、だんだんとAに懐いてきていた。かと思えば、黒猫は草むらへと逃げていった。
「…逃げられた、か」
仕方ないと言いたげな顔をして、また道無き道を進んで行く。目的地は特に決めていないようで、あっちに行ったり、こっちに行ったりを繰り返している。
「あ〜ぁ……行くとこねぇな…」
そう呟いた瞬間、背後から自分以外の足音が一つ聞こえ、その場に立ち止まる。先ほどの黒猫かと思い、振り返ってみても黒猫は居ない。気のせいかと思い、そのまま歩みを進めて行く。が、確実に後を追う足音が聞こえる。早足で歩くと、その足音も早足で付いてくる。突然立ち止まると、その足音も止まる。
「……誰だよ、お前」
何となく声を荒げ、足音の正体を探る。だが返事は返してこないし、反応も無い。
「……正体不明、ってとこか」
数秒ほどその場に立ち止まってみる。すると視界の先がユラリと揺れる。風の仕業じゃない。誰かがそこに居る。獲物を捉えたような鋭い瞳で見つめ、叫ぶ。
「そこか!」
手を伸ばし、姿を消していた人物の腕を掴む。
「痛い、痛いってば!離してって!」
思いがけない人物に驚きを隠せぬまま、少女ぬえの手を離し、頭を搔く。
「…あんた気付いてないの?」
「え、なにが…?」
「さっきの黒猫、あれ私」
「え?さっきの猫?」
「そうよ。本当に気付いてなかった?」
「あー、うん。まったく」
「…あんたって妖怪のくせして鈍感なのね」
「悪かったね、鈍感で」
そう言いながら、目的地の無い場所まで歩みを進めていくA。
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作者名:狂霧@HAL | 作成日時:2017年12月1日 17時