月の姫の願い事―【蓬莱山輝夜】(月霊 響さんリク) ページ16
迷いの竹林に位置する永遠亭に住み込みで働く氷龍のAは蓬莱山輝夜の従者ではなく、遊び相手として時にいじられたり、冷やかしを受ける。しかしそれももう慣れっこ。
そんなある日の永遠亭の庭掃除をしているAに輝夜が話しかけてきた。
「ねえA。ちょっと今いいかしら?」
「あと少しで終わるから部屋で待ってて」
「それはあとどれくらい?」
「……さあ?」
「貴女に頼みたいことがあるから、掃除が終わるまでここで座って待ってるわ」
そう言いながら縁側に座り込む。はたから見れば律儀なお姫様、知っている者からすればわがままなお姫様。それも輝夜の良い所か、と思いながら庭掃除を進める。
それから約5分。掃除はまだ終わりそうにないなと呟き、頬を伝う汗を拭きながら輝夜の方を見る。やけに静かにして座っている輝夜に疑問を浮かべ、声をかける。
「輝夜?」
「………」
「え、寝たの?この短時間で?」
輝夜に近付き、顔を覗き込む。瞼は閉じられ、小さな寝息を立てている。軽く肩を揺さぶるが反応はなし。Aはため息を吐き、輝夜を抱きかかえ、部屋に向かう。
付近にいた兎に布団を敷いてもらい、そこに輝夜を寝かせる。
「よし、これで良いかな……」
幸せそうに眠る輝夜を見つめ、その長い黒髪に触れる。手が滑るほどの髪質を羨ましく思いながら、なおも髪に触れ続けていると突然に手を掴まれ、Aは素っ頓狂な声を上げる。
「びっくりした……起きてたの?」
「今、起きたばっかりよ。ここまで運んでくれたのは誰?」
「私だけどさ、あの数分間のあいだで寝るって……疲れてたの?」
「色々あってね。あぁ、Aに頼みたいことがあるの忘れてたわ」
寝返りを打ち、Aに背を向けたまま頼み事を言う。
「私もまだ眠たいし、Aも一緒に寝てくれないかしら?一人じゃ寒いもの」
「まだ掃除し終わってないんだけど……輝夜の頼みなら断れないね」
そっと布団に入り、輝夜の不意を突き、後ろから抱き着く。
「ちょっと!いきなり何してるのよ」
「初めから図ってたでしょ?こうなる展開を。素直になってくれてもいいんだよ?お姫様?」
「少し口を閉じなさい。私は寝たいの」
「そうでしたね。じゃ、おやすみ」
「……おやすみ、A」
二人が眠りにつくまで、そう時間はかからなかった。
しかし後日、てゐから冷やかしを受けたのは言うまでもない。
それでも幸せな時間を過ごせたのはお互い後悔はしてない。想いが本当であると理解したから。
半人半霊の一人前―【魂魄妖夢】[前編](星夢さんリク)→←『お久しぶりです』
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作者名:狂霧@HAL | 作成日時:2017年12月1日 17時