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「Aが無償で受けるわけないよな?」
「まあね。指輪を譲ってもらった」
「恐喝の間違いだろ」
「失礼だなぁ。ちゃんと許可もらったよ。サファイアのかわいいやつ」
「ふうん。お前がものを欲しがるなんて珍しいな……そういえばレオリオはちゃんと医者になれたんだってよ」
「すご。お祝いしに行きたいな」
「ズシもプロハンターとして活躍してるらしいぜ」
「さすがだなぁ……そういえばキルアは?アルカちゃんを付き合わせるわけにいかないからジムにも通ってなかったみたいだし、ハンターなんて名ばかりでしょ?」
「うるせえな。当たりだよ」
Aはおかしそうに笑った。その笑い声を聞くのは久々だ。それからゴンとかビスケの話、とりとめのない世間話をぎこちなく続ける。沈黙が怖いし酒が入っているしで、オレはいつも以上にお喋りになる。会話のうわすべりしてる感じがせつない。どうしたらお前に近づけるんだろう。いけないとわかっていても、Aを一心に愛した記憶があふれて止まらなくなる。
「好きなひとは」
はっとした。胃の底が冷えるみたいな感覚。だけどオレは口からこぼれてしまった言葉を消す念を知らなかった。スピーカー越しじゃなかったら間違いなく空気がはりつめた音が聞こえた。
「好きなひとは、いる?」
ダサい。情けない。声があまりに頼りなくて、オレはいつからこんなに弱くなってたんだろう。親指一本うごかしたら途切れるつながりはインスタントで楽ちんだよな。だけどオレは苦しむことを選んだ。きっと最初で最後の恋の相手なんだ、どうせなら。
「……ううん」
その言葉ひとつでひどく安心した。一喜一憂、か。どうやら初恋は色褪せることなく、性懲りもなく燻っているらしい。ジャポン風のカフェで会ったおばあちゃんの声が耳の奥で蘇ってくる。
「飛鳥川 淵は瀬となる 世なりと」
……それから、なんだっけ?
ああ、
「思ひそめてむ 人は忘れじ」
このクソッタレで何もかもが失われていく世の中でも、オレはお前の記憶だけは後生大事に抱えて生きていくぞ、A。
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◎SaE(プロフ) - あなたの書く文章が大好きです。 (12月22日 11時) (レス) id: 5b13a1df84 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 更新待ってます。 (9月2日 23時) (レス) id: fdd6e06bf4 (このIDを非表示/違反報告)
こもれび(プロフ) - 有希さんと好みが似ているのか、好きなキャラや印象で近しいものが多くて共感しまくりです。こちらの作品を詠ませて頂くのは多分これが3度目なのですが、性懲りも無く毎度同じ場面で泣いてます。顔面が涙でぼろぼろです。言葉巧みな表現が大好きです。応援しています。 (2022年12月28日 4時) (レス) @page39 id: 4d4f4ab205 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇる-ameizumi(プロフ) - 今出ているところまで読み切りましたがとて好きな文章構成や内容で、ところどころでほんとに泣いてしまいそうでした。終わりが見えてきそうですが最後まで応援しています。 (2022年12月23日 0時) (レス) id: 5d2780f034 (このIDを非表示/違反報告)
有希(プロフ) - 無気力に自信が有る人さん» 返信に間が空いてしまってすみません!いつもコメントと応援ありがとうございます。バチクソイケてる青年キルアを描写していけたらなと思います!頑張ります! (2022年3月18日 11時) (レス) @page40 id: d83879ced4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:有希 | 作成日時:2021年11月14日 16時