152 削除、削除、削除 ページ12
どくん、と空気が震えた。ああいよいよか。スマホから顔を上げる。キルアがアルカちゃんを連れてきて、その神業のような力でゴンを治癒してやって、彼は苦しみから開放される。そうしてわたしたちは、ひとつじゃなくなるんだね。走馬灯みたいにキルアとの出来事をぼんやり思い出す。
「え。キルアもこのバンド聞くの?」
トリップしたての異世界人は芸能がからきしで、流行りの曲をネットやゴンとかの話から知るので精いっぱいだった。半年くらい経ってようやく歌手の名前をあげられるようになった。わたしはどの世界にいようとも、メジャーよりマイナー寄りのバンドが好きになるらしい。キルアも好きだなんて意外だった。流行りものばっかり聞いていそうだなって勝手なイメージがあったから。
「音がいいんだよな」
「わたしは歌詞がすき」
「オレさ、最近の曲より5年前くらいのやつばっかり聞いてんだ」
「キルアも?一緒!」
わたしたちがデートするのはカラオケが多かった。そっくりそのまま音楽の趣味が同じなわけじゃないけど、それなりに楽しかった。キルアもそう思ってくれていたと思う。わたしがふたりで歌おうよってせがんで、ピンクと黄色の線が音程バーのうえに重なっていた。コレは意外だけど、わたしたちには共通点がいくつかあった。目玉焼きにかけるのはコショウで、好きな色は青で、パンに塗るのはバターよりジャムで、そのジャムはブルーベリーで、ジーンズを履くのは右足から。
そういう小さなことを拾い集めて蓄積してゆくたびに、キルアがただの推しキャラからわたしの大切な男の子に変わっていった。
アルバムのアイコンをタップして、写真をスクロールしていく。なんだか懐かしい。わたしの髪、こんなに短かったっけ。隣に映るキルアの顔も、一年前になるとちょっと幼い気がする。
昔にさかのぼっていくほど写真の枚数は目に見えて増えていく。わたしは全部選択して、震える指先で削除のボタンを押した。ごめんね。こんなわたしを許してね。きみがわたしのそばからいなくなったとき、こんなの見たら、死んでしまう。弱くてごめんね。
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ま - 一気に読み切ってしまいました!楽しかったです!途中感情移入して泣いちゃうとこもありました笑更新楽しみに待ってます! (4月16日 21時) (レス) @page39 id: 46b1d29c13 (このIDを非表示/違反報告)
◎SaE(プロフ) - あなたの書く文章が大好きです。 (12月22日 11時) (レス) id: 5b13a1df84 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 更新待ってます。 (9月2日 23時) (レス) id: fdd6e06bf4 (このIDを非表示/違反報告)
こもれび(プロフ) - 有希さんと好みが似ているのか、好きなキャラや印象で近しいものが多くて共感しまくりです。こちらの作品を詠ませて頂くのは多分これが3度目なのですが、性懲りも無く毎度同じ場面で泣いてます。顔面が涙でぼろぼろです。言葉巧みな表現が大好きです。応援しています。 (2022年12月28日 4時) (レス) @page39 id: 4d4f4ab205 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇる-ameizumi(プロフ) - 今出ているところまで読み切りましたがとて好きな文章構成や内容で、ところどころでほんとに泣いてしまいそうでした。終わりが見えてきそうですが最後まで応援しています。 (2022年12月23日 0時) (レス) id: 5d2780f034 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:有希 | 作成日時:2021年11月14日 16時