△ もっと俺を騙してよ ページ17
「Aちゃんが部屋から出ていくの、わかったよ。
厠だと思ったのにいつまで経っても戻ってくる気配がなかった。こわくなった。急にたまらなくなって、自分を安心させようと家中を見て回ったよ。台所か茶の間かで、お菓子盗み食いでもしてるAちゃんが『どったの善逸』って、こっちの気も知らないでケロッと出てきてくれる、そう思った。だけどAちゃんはどこにもいなかった。玄関にはAちゃんの刀と靴がなかった。そのときから、二時間も、俺、どれだけ、どれだけどれだけ、どんな、どんな、気持ちで」
「ごめん」
濁流みたいに紡がれる言葉を遮るみたいに震える肩を抱きしめてやる。今にも泣きそうに潤んだ琥珀が睨んでくる。今にも崩れそうで、ギリギリのところで保ってるような、そんな顔で。
もう。Aちゃんなんか、Aちゃんなんか
Aちゃんなんか……
善逸の両腕がわたしの背中を掻き抱いた。そこでわたしはようやく気づいた。わたしは善逸にとって、数ある恋の相手のひとりなんかじゃないんだって。
夜中にいなくなったら憔悴するほど心配して、何かあったらと思うと耐えられない。わたしはいつの間にか、善逸にとって、善逸より大事なものになってしまってたらしい。
「心配かけてごめん。もう二度としないよ。ちょっと……夜のお散歩に行ってたんだ。危ないところは避けたから大丈夫」
今世紀最大の嘘つきとはわたしのことだ。ごめんね善逸。素直に白状したら長くなるし、ぶっちゃけ早く寝たいんだ。
「……俺だってそうだよ。誰のせいで起こされたと思ってるの」
おっと。心の音、全部聞こえるんだったね。うっかりうっかり。厄介だなあ。ちょっと耳塞いどいてくれないかな。
「耳を塞いだって、Aちゃんの音ならわかるよ」
わたしのこと大好きかよ。
「そうだね。大好き」
「次はどんな嘘つくの?」と善逸の親指が、わたしのくちびるをなぞる。
「ほら、もっと俺を騙してみせてよ」
いつもわたしにやられっぱなしの可愛い善逸にそんなことを言われたら、もうどうしようもない。明け方に謝りながら一緒に眠った。
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あき - うわぁ、HUNTERHUNTERも書いてくれるなんて……🥹🥹 (2023年1月30日 14時) (レス) @page50 id: 099b645bba (このIDを非表示/違反報告)
まっひぃ - 善逸のそういう所好きだぁー!😁かわええ (2021年11月11日 15時) (レス) @page48 id: d24aae8d9d (このIDを非表示/違反報告)
ひとみちゃんDX(プロフ) - 今まで読んだ中で一番好き! (2021年10月29日 12時) (レス) id: 0e9cb43b28 (このIDを非表示/違反報告)
くるみ割り人形 - わあわあ好きだあ途中どうなったのってなったけどちゃんとハピエンで良かったああうわん嬉しすぎて嬉し涙が…というかヒロ◯カの小説も書いていらっしゃるなんて!今すぐ読んできます!あ、この作品めっちゃ良かったです!好きです!(唐突の告白 (2021年9月12日 7時) (レス) id: 7c01fc8068 (このIDを非表示/違反報告)
朝霧 sud .(プロフ) - とっても素敵でした。 (2021年9月9日 15時) (レス) id: a463316156 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:有希 | 作成日時:2019年10月4日 22時