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△ しあわせが過ぎる ページ11

ふだんは見せられない心の奥までわたし見せちゃった善逸は、ふつりと糸が切れたみたいに寝てしまった。善逸のそばをいつまでも離れなかった。こんな風に誰かを大切に思うのは初めてだった。ほっておけなかった。



 ガラス戸の向こうで糸雨が降っていた。いつの間にか季節が巡って、梅雨の匂いがする。善逸が寝てから三時間くらいして、琥珀のひとみがうっすらと開いた。「鬼ある所とも知らで」と、くちびるがポソリと動く。



「神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ」

「神?神って、雷のこと?」

「うん。雷鳴は、神さまが鳴らしてるって信じられてたみたいで……」



 そこで善逸が咳き込んで、話は途切れる。わたしは彼を抱き起こし、呼吸のほそい背中をさすってやる。どうしても話の続きをしたいのか、ちいさく笑って、口を動かす。



「はや夜も明けなむと思つついたりけるに、鬼はや一口に食ひけり。あなやといひけれど、神なるさはぎにえ聞かざりけり。やうやう夜も明けゆくに、見れば、率てこし女もなし……

ある男が、愛した女を盗んだ。二人は愛し合っていたけど、身分違いの、許されない恋だった。追っ手が来る前に森へ逃げて……そのうち嵐になって、倉庫に鬼がいるとも知らずに中へ押し込むんだ。守るつもりが、じつは鬼に食わせてしまって、だけど男は雷鳴で気づかない。夜が明けてからやっと、女がいなくなっていたことに気がついた。

……そんな話の読み聞かせを、ずうっと昔に奉公先で聞いたことがある。盗み聞きだったけど」



 秋の月を閉じこめたみたいな目は綺羅綺羅とうるんでいて、表面にわたしの姿を映している。



「目を覚ますと、Aちゃんがいなくなってるかと思った」



 じいちゃんにAちゃん、ふたりも俺を愛してくれるひとができて、いつか罰があたらないか怖くなる。



「いいのかな、こんなに、しあわせで」



 しあわせが過ぎて怖い。受けとめきれないしあわせはひとの心に余計な影をおとすみたいだった。



「Aちゃん、俺はね。そう長くは生きてきてないけど、人生でいま、いちばん、」



続く言葉はない。わたしがくちびるを塞いだから。

△ もう愛を語るしかない→←△ 三大カップルイベント



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あき - うわぁ、HUNTERHUNTERも書いてくれるなんて……🥹🥹 (2023年1月30日 14時) (レス) @page50 id: 099b645bba (このIDを非表示/違反報告)
まっひぃ - 善逸のそういう所好きだぁー!😁かわええ (2021年11月11日 15時) (レス) @page48 id: d24aae8d9d (このIDを非表示/違反報告)
ひとみちゃんDX(プロフ) - 今まで読んだ中で一番好き! (2021年10月29日 12時) (レス) id: 0e9cb43b28 (このIDを非表示/違反報告)
くるみ割り人形 - わあわあ好きだあ途中どうなったのってなったけどちゃんとハピエンで良かったああうわん嬉しすぎて嬉し涙が…というかヒロ◯カの小説も書いていらっしゃるなんて!今すぐ読んできます!あ、この作品めっちゃ良かったです!好きです!(唐突の告白 (2021年9月12日 7時) (レス) id: 7c01fc8068 (このIDを非表示/違反報告)
朝霧 sud .(プロフ) - とっても素敵でした。 (2021年9月9日 15時) (レス) id: a463316156 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:有希 | 作成日時:2019年10月4日 22時

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