ひとり ページ10
隣に並んで歩くことが、私たちにとって、どれだけ難しいことなのか。
思い知ってしまった。
人の波に流されるようにして、改札を出るころには、もう、はしゃいだ女の子たちの背中も、高嗣の背中も見えなくなっていた。
オレのこと見ないで。
なんて、見えなくなるなら、そんな心配しなくてもいいじゃん。
不貞腐れた気分で、線路沿いの道を街灯に照らし出される自分の影を見ながらとぼとぼと歩いた。平日は、いつもいっぱいになっている自転車置き場も、土曜の夜は、自転車の数もまばらで、すぐに自分の黄色い自転車を見つけることができた。
ここで待てばいいのかな……。
待っていれば、いいのかな。
いくらかの自転車が引き出され、さらに少なくなっていく自転車。
そんな中にぽつんと立っていると、少し心細くなる。
待っていれば、戻ってくるよね。
夜の冷えた風が頬を撫でて、容赦なく体温を奪っていく。
つま先が凍えていく。
「……もうっ。」
耐えられないほどの寒さじゃない。でも、高嗣の世界と私の世界、それぞれの世界を生きるルールの違いに、少し苛立って、一人きりでいることが耐えられなくなりそうだった。
「寒い。無理。」
自分勝手な言い訳をして、自転車にカギを差し込んだ時、遠くで自転車を倒す音が聞こえた。
嫌な記憶がよみがえる。
音のした方に目を向けると、倒れた自転車を立て直している人影が見えた。
今すぐ逃げ出したくて、待てなくて。
荷物をカゴに押し込んで、自転車を引き出そうとすると、
「何やってんだよ。」
息を切らした高嗣がハンドルを握る私の手を掴んだ。
手には、コンビニの袋。
寒さに染まる頬。
白い息。
「寒くて、待てなかったんだもん……。」
多分、バレバレの嘘。
「子供かっ。ﾊﾊｯ」
そう言って笑って、私からハンドルを奪うように自転車を引き出した高嗣が、長い脚を邪魔そうに自転車にまたがって、おもむろに私のコートのポケットに手を入れた。
「ちょっ、何っ！？」
「乗る？漕ぐ？」
私のポケットに手を入れたまま、私の質問に答えずに聞いてくる。
「乗る……。」
「A、重いんだよなぁ。」
意地悪を言いながら、前を向いて、ハンドルを握る背中。
高嗣の手がいなくなったコートのポケットには、温かい缶コーヒーだけが残った。
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植尾あい(プロフ) - あいこさん» 初めまして。何度も読み返していただいているなんて、とてもうれしいです。ありがとうございます。まだまだ先が長いお話ですが、のんびりマイペースで書き続けますので、宜しくお願い致します。 (2020年12月23日 11時) (
レス) id: 2932ce7796 (このIDを非表示/違反報告)
あいこ(プロフ) - 初めまして。今まで何度も読み返してるほどファンです！これからも楽しみにしています。素敵なお話をありがとうございます(^^) (2020年12月16日 17時) (レス) id: 7af89e0405 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ソフィアさん» ありがとうございます。読みやすく、書きやすく、修正したら、必ず元に戻しますので、待っていてください！ソフィアさんのコメント、いつも励みになっています！これからもよろしくお願いします(^^) (2020年8月17日 21時) (レス) id: 3c990321a7 (このIDを非表示/違反報告)
ソフィア(プロフ) - 承知です。待ちまーす。 (2020年8月17日 18時) (レス) id: 06f6b1f19d (このIDを非表示/違反報告)
ソフィア(プロフ) - いいっ、スッゴクいい。何てこと無い、ヤキモチやかれる場面だけど、彼女の嬉しい気持ちがすごく良くわかります！ (2019年11月9日 7時) (レス) id: cfeb0a9590 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：植尾あい
| 作成日時：2019年10月22日 22時
