この嘘の行方

覚悟 ページ28

「ありえないでしょ？！」


先に否定したのは、佐知。
その全力の否定に、若干、ニカが可哀想な程だった。


「Aは、私の好きなタイプ、わかってるよね？」

「え、え？だって、この前……。ニカのこといいって……。」


佐知の気迫に押されながら、この前、同じ場所で繰り広げられた会話を指摘する。


「あれは、……芸能人と友達とか、ちょっと、自慢できるじゃん……。」


もはや、下心だけしか感じられない本心。

そうだ、佐知って、ミーハーなところがあったんだ……。




「じゃぁ、ニカがアイドルって……。」




にわかに信じ難い事実。



あんな、可愛げのないアイドルっているの？



思い出してみるあの日の会話。



生意気なクソガキ。






「本当だよ。」






佐知の声が、肯定する。




私の中に残る、ニカの残像。




持て余した長い手足。


ダルそうに立つ細身の身体。


グラスを持つ指先。


子どもっぽい八重歯。





掠れた声が呼ぶ、私の名前。



『A』





「……やめてよ。からかってるんでしょ？」




否定したいのは、何故？




大きな口で笑って手を振るニカが、私の中のニカの全てで、受け入れ難い事実に、胸の奥がギュッと締め付けられるように痛くなった。




「からかってなんかないよ。」




佐知の声は、私の胸の内を見透かしているかのように冷静。



「……だって、あんなクソガキ……」



否定したいのは、認めたくないのは、あの日、あの瞬間、この場にいたニカを知ってしまったから？


それは、アイドルなんかじゃなくて、触れられる距離。


言葉を詰まらせる私に、佐知の声が確信を得たように刺さった。





「覚悟が必要だよ？A。」





YES とも、NO とも、返事ができず、それ以前に、自分のこの曖昧な気持ちが何なのかも認めたくないのに、突きつけられた現実は、見つけたばかりの私の中の小さな想いに重くのしかかった。

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