サイテー ページ8
オレが1人になろうと、時間の流れは、何も変わらなくて、東京公演に向けての準備が始まり、忙しくも充実した日が続いていた。
もう、夜の空気は、秋の温度に変わって、吸い込む度に鼻の奥をツンと冷やした。
ポケットの中の鍵をチャラチャラと鳴らしながら、人気のないエントランスを抜ける。
自然とこぼれる鼻歌。
エレベーターは、ゆっくりと上昇し、オレをオレでいられる唯一の部屋へと運んでいく。
「……ん?」
少しの違和感と懐かしさ。
それが、何なのか、答えに辿り着くと同時に、エレベーターが止まり、ゆっくりとドアが開いた。
シトラスの香り。
開いたドアの向こう、そこに見える光景は、オレの部屋のドアとヒールを履いても、まだ、小さい、彼女の姿。
あの日、あの時、離したその手。
エレベーターを降りたオレを待ち構えるように、真っ直ぐにオレを見ていた。
ポケットから鍵を取り出して、無言で近づくと、その目が涙でいっぱいになる。
でも、ダメだよ。
もう、その涙は、拭ってあげない。
「何やってんの?」
ドアノブに鍵をさしながら、カノジョを見ないで言った。
「……ごめん。あの……少し、話せない?」
久しぶりに聞く声は、力なく、オレの気持ちを揺さぶった。
でも、もう、決めたから。
「ごめん、無理。もう、話せない。」
感情を抑えた単調な声が、自分の声じゃないみたいに聞こえた。
先に手を離したのは、チカだよ?
「……お願い。やっぱり、私、……高嗣のこと……」
なのに、今さら、そんな顔すんなよ。
その先の言葉は、もう、聞きたくなかったから、視線だけでカノジョを見て、言い捨てた。
「もう、『高嗣』とか、呼ばないで?
もう、こんなこと、しないで?」
「…………ごめん。」
ごめんね。
酷いヤツだって、思っていいから。
オレじゃ、キミが望む幸せをあげられないから。
オレの力じゃ、キミの描いた将来に連れていけないから。
オレじゃない、誰かと、幸せになって……。
立ち尽くすカノジョをおいて、ドアノブを引いて部屋に入る。
ゆっくりと閉じていくドアの向こうで、どんな顔してるの?
静かな夜に、ドアが閉じる音が響いて、その向こうにいるはずのキミの泣き声が聞こえた気がした。
「……サイテー。」
ドアに寄りかかって、手探りで指先に触れたドアノブ。
鍵を締める音に、誓った。
もう、恋なんて、しない。
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植尾あい(プロフ) - ノンさん» はじめまして。キミ声、何度も読んでもらえたなんて嬉しいです。ニカ中毒だなんて!光栄です!私の言葉、気に入ってもらえましたか?よかった!これからも、のんびりですがキミ恋もよろしくお願いします(*^^*) (2017年4月25日 22時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
ノン - 初めてコメントさせてもらいます。キミ声にハマって、何度も読ませてもらって、何度も涙して、ニカ中毒になりました。(笑)ニカsideも楽しみに読ませてもらっています。楽しみがまた増えました。ありがとうございます。あいさんの言葉の表現、大好きです。 (2017年4月23日 23時) (レス) id: d6afd85c10 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ナナさん» 実は、見つけてたんです(ノ∀`*)ンフフ♪ なんか、こういううっかりしてそうじゃない?(笑)まだまだ、距離を置いて慎重なニカが、この距離をどうしていくのか、楽しみにしていて下さい!バンザイ! (2017年3月29日 17時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - きななさん» バンザーイ!二階堂くんにバンザーイ! (2017年3月29日 17時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - カギ見つけてたんだ!探したはずのポッケに入ってたとか本当にやってそうだなー(笑)ってニヤニヤしちゃった(°▽°)いつから「ニカ」が「高嗣」として接して行くのかとか、楽しみで仕方ないっ!ばんざーーーーい!! (2017年3月27日 10時) (レス) id: 6cd6e0891b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:植尾あい | 作成日時:2016年12月25日 22時