１：ｎの恋愛構図

妹的存在《Y》 ページ8

上京決定。

この就職難に、自分が希望する企業に就職できただけでも幸せなこと。勤務地まで我が儘言えない。

配属と勤務地が書かれた辞令を手にして、自分の部屋でかれこれ３０分。

「あいつ、うるせぇだろうな……。」

浮かんでくるのは、年下の幼なじみ、Aの顔。
オレの後ろを『ワタ！』って、無邪気な笑顔で追いかけてくる姿。

「泣くかな……」

面倒臭いって思いながら、少しだけ期待する。

伝えたことのない、Aへの想いは、オレの心の中にしまって、持っていこう。そう決めた。


Aに、上京することを告げず、何となく避けるように過ごしながら、地元を離れるその日を迎える。

「恥ずかしいから。」って、家族の見送りを断って、地元の小さな駅のホームに立つ。

何度もここから出掛けて、必ずここへ戻ってきた。
でも、今回は、少しだけ遠くへ。簡単に戻ってくるわけにはいかない。カバンを持つ手に力を込めた。

「ん？」

遠くから聞き覚えのある声が近づく。

「ワーーーターーー！！！」

Aだ。
誰だよ、言ったの。

バタバタと走ってきたAが息を切らせて目の前に来ると、目一杯の膨れ面でオレを見上げる。

「何だよ。」

そんな顔しても、怖くなんてない。

「なんで、言ってくれなかったの？」

「言いたくなかったから。」

「なん…で？」

そこまで言って、Aは、大粒の涙をこぼし始める。

あぁ、やっぱり、泣いた。

「Aが泣くからだろ？」

「見送れなかったら、もっと泣く！」

どっちにしろ、泣くんじゃねぇかよ。

ホームに電車が入ってくる。
巻き起こる風に、Aの髪が揺れて、涙に濡れた頬に張り付く。

「じゃあ、見送れてよかったな。」

指先で髪を払って、ポンと撫でてやると、不安そうな顔で俯く。

「何だよ、その顔。オレのことあの世にでも送り出すつもり？」

俯いたまま首を振るAが、子供の頃の姿とダブって、可笑しくなる。

「ワタ……私。」

心がザワザワする。

「ワタが好きだ……よ。」

最後の音を聞き終える前に、Aの頭を抱え込むように抱きしめた。

「知ってるよ。」

「帰ってくるよね？」

不安そうな言葉に、発車アナウンスが重なる。
Aの耳に唇を寄せて、オレにしては優しい提案をする。

「Aが来ればいいだろ？」

「え？」

戸惑うAに、キスをして、電車に乗り込むと、ドアが閉まる。

ホームで真っ赤になって呆然とするAが可笑しくて、声を出して笑った。

＊end＊

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