泣かせてくれる人《M》 ページ6
仕事帰りの交差点。
横断歩道の向こう側に見つけたのは、紛れもなく私の彼氏。
それは、見間違えるわけもなく、去年の誕生日に、私がプレゼントしたTシャツを着ていて。
そして、疑う余地も、弁明する余地も、むしろ、その必要もないほどに、密着した私の知らない女の子の腰に回る手。
信号は、青に変わり、人の波に乗って私のいる側へと流されるように向かってくる二人は、私の存在に気づくことなく、すぐ隣を通りすぎて行った。
「何……これ。」
乾いた笑いが込み上げて、苛立つ。
点滅しはじめた信号の緑色の光に、誘われるように踏み出す右足が縺れる。
ドンッ
真正面から走ってきたサラリーマンがぶつかった衝撃に、転ぶ覚悟を決めた私の腕を誰かの手が引き上げるように支えた。
点滅していた信号は赤に変わって、人の波は、ピタリと止まった。
「危なかったね。」
「宮田くん………」
私の腕を掴んでいたのは、同期の宮田くんの温かくて優しい手だった。
「ありがとう……」
「どういたしまして。」
全く感情のこもらない私の声に、フワリとした笑顔で宮田くんが笑ってくれた。
それだけのことに、何故か涙が込み上げて、どうしたらいいのかわからなくなる。
再び青へと変わった信号に、今度は、宮田くんと一緒に歩き出す。
こんな風に宮田くんと歩くのは、初めてかもしれない。
盗み見るように、その横顔を覗くと、優しく細められた目と私の視線がぶつかって、笑顔が伝染する。
柔らかくて、温かい空気が、私たちの間を流れていく。
「あっ！」
宮田くんが急に私の手をとって、引き寄せる。
それと同時に、私の肩を掠めるように自転車が通りすぎて行った。
「危なかったね。ﾌﾌｯ 二度目。」
そのまま、手を握った宮田くんが、私を車道から遠ざける。
「こっち。」
柔らかくて、温かい宮田くんの手から、優しさが伝わってきて、私の心の奥の強がりを溶かしていく。
「…………う…ぅ。」
我慢できずに溢れる涙に、一瞬驚いた表情をした宮田くんが、もう一度、ギュッと私の手を握ってくれる。
それから、私を人波から隠すように寄り添って、優しい声で言った。
「何か、食べて帰りますか。」
視線は前を向いていたけど、その言葉と心が、真っ直ぐに私に向けられていて、涙が止まらなくなった。
「焼き鳥……食べたい。」
泣きべそのリクエスト。
「了解。」
そう言った宮田くんが私の手を引いて、一歩先を歩いた。
＊end＊
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植尾あい(プロフ) - はんちゃんさん» ありがとうございます！チャラみつとの約束が果たされたのか、確かに気になりますよね。何万人といるファンから、主人公ちゃんを見つけることができたのか……書いてみたくなりました！リクエストありがとうございます！ (2019年2月12日 20時) (
レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
はんちゃん(プロフ) - はじめまして。どれも素敵です！！けど、チャラみつの「夜明けのキセキ」1ページにギュッと詰まってますね、1ページですごく惹き付けられました。上手く言えないけど、すごいですね！このエピソードで、話膨らませて続き読ませて欲しいです！ (2019年2月10日 1時) (レス) id: 0785dd2a14 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ひよさん» 意地悪な玉森先輩、初めて書いたのでいじわる加減がわからず……でも、キュンとしてもらえてよかったです！卒業シーズンのソワソワと切なさに、自分でもキュンとしました(笑) 初めてTwitterでのメンバー投票だったのですが、私も楽しかったので、また、やります！ (2018年3月9日 15時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - hitomin0921さん» 『好きか嫌いか……』シリーズは、メンバーとの距離感が難しくて、でも、切なくてキュンとするシチュエーションで、書いてる私もドキドキしてます(笑) きっと、横尾くんは、起きていたと思いますよねﾝﾌﾌ 他のメンバーも楽しみにしていて下さいね！ (2018年3月8日 22時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - はぁぁぁぁぁ玉森先輩好きです。玉ちゃんに一票投じたものです。幼なじみのお話だけど今の時期のお話で甘酸っぱくてキュンとしちゃいました。ちょっと続きを妄想しちゃいます！ (2018年3月8日 22時) (レス) id: a35722cf0d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：植尾あい
| 作成日時：2015年7月16日 22時
