キミのその手を その声を 【9】

あの日の鍵 ページ27

「あれ？」


タイムリミットを迎えたニカが玄関へと向かいながら、ポケットの中を探って首をひねる。


「何？忘れ物？」

「さっきまであったんだけどな……おっかしいなぁ……。」


ズボンの上からパタパタとあちこちのポケットを叩いて、中身を確かめる後ろ姿を追い掛けながら、少しだけ離れる寂しさを感じた。


「リビング見てこようか？何がないの？」

「ん？」


ニカが足を止めて、その後で同じように足を止める。

体をよじるように振り向いたニカが、口にする忘れ物。




「……オレんちの鍵。」




それは、

私たちを出会わせてくれた、

小さなキッカケ。




「もーーーーー！」

「さっきまであったんだって！」


膨れる私を、ニカの言い訳が追いかけて来る。



ねぇ、やっぱり、

私たちの出会いは、運命だった？



ひとりでリビングに戻って、ニカがいた場所を見回す。

そこには、まだ、ニカの気配が残っていて、ニカの温度と優しさが残っていて、そっとクッションに触れると温かかった。


「もう、いいよ。Aちゃん家に帰ってくるから。ﾝﾌﾌ」

「帰ってきてもいいけど、私がいなかったら、入れないじゃない！」

「あ……、そっか。」


玄関からニカの声がサラリと嬉しいことを言うけど、今は、それにときめいてる時間はないから、クッション周りを手探りで鍵を探す。

クッションの下に手を入れると、指先に硬い感触。


「あった！！！」

「え？どこにあった？」

「クッションの下に挟まってた。」


握り締めた鍵を持って、玄関のニカの元へ戻ると、靴を履いて出かける間際のニカが手を出した。

その大きな手のひらに、鍵を乗せるとチャリっと軽い音を立てて包み込む様に握って、そのままポケットに入れた。

そして、そのポケットを懐かしむような柔らかな表情で見てから、ポケットから手を出した。



「ありがと！……ﾌﾌｯ
また、やっちゃった。」



そう言って笑うニカに、あの日が二人の思い出になっている事を感じて泣きそうになる。



あの日

あの夜

雨の中



私が拾った仔犬が恋になる




「もぅ……気をつけてよ。」




キミは、もう、私のものだから。

私は、もう、キミのものだから。




他の誰かに拾われたりしない様に、長い長いリードをつけて、美味しいご飯と、缶ビール冷して待ってるから。




どうか


どうか



キミにとっても



この恋が『最後の恋』になりますように。


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