向かうべき場所へ ページ26
リビングのドアが開いて、ニカの気配が近づいてくるのを感じて、慌てて顔を上げると目の前のスプーンを手にとって、プリンを一口食べた。
放置されていたプリンは、だいぶぬるくなってしまっていて、それでも、とろける美味しさは、話題になるだけの価値を感じた。
当たり前になったニカの指定席に、フワッと使い慣れたボディーソープの香りと上がった体温を感じて、少しだけ視線を向けると、ガシガシと髪を拭くタオルの隙間から見えるニカと目が合う。
「………早かったね。」
「そう?」
「うん。」
視線をプリンに落として、目をそらす。
ダメだ。
泣かないって決めたのに、夜が更けて行くにつれて、飲み込んだ涙の量に心が決壊しかけてしまいそう。
「私もシャワー………」
「んっ!」
この場を逃げ出そうと立ち上がりかけた私の目の前に、ドライヤーが差し出される。
隣から伸びた長い腕が私の目の前にドライヤーを差し出して、タオルをかぶったニカが濡れた前髪の向こうで目を細める。
「ドライヤー、して!」
雨に濡れた仔犬みたいに、無邪気な笑顔でそう言った。
「いや、私もシャワーをね……。」
「ドライヤーしてからでいいじゃん。」
ワガママを言うニカは、笑ってるけど、その向こうには、きっと、また、不安の火種を隠してる。
「………もぅ、仕方ないなぁ。」
少しだけオーバーに肩をすくめるようにしてそう言ってから、ドライヤーを受け取る。
クッションに座るニカの後ろに回ると、タオルを外したニカが顔を上げて真後ろの私を見上げて言った。
「オレ、Aちゃんに髪の毛乾かしてもらうの大好き!」
本心?
それとも、
私の心を守ろうとしてくれてるの?
どっちにしても、私が飲み込む涙の数は、また増えて、笑顔を向けるニカに、
「ちゃんと、前向いてて。」
って、言って、ドライヤーのコンセントを入れた。
「はーーい。」って、返事をして顔を前に向けたニカの濡れた髪に触れると、指先から愛しさが溢れ出す。
ドライヤーのスイッチを入れて、温風を確認してから、あの日みたいに言ってみる。
「熱くても我慢してくださーい。」
「またかよっ!」
あの日の思い出を共有できていることを示すニカの返事に、心が温まる。
「ほら、ちゃんと前向いて。」
振り向こうとするニカの頬に、後ろからそっと手のひらで触れて、前を向かせる。
ニカは、前だけ見ていて。
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植尾あい(プロフ) - 千明さん» if聞きながら?!私、自分の書いた妄想のくせに、それやると悲しくて涙ぐむんですよ……どうかしてる。祈りも最近やばいです。シーンタイトルにしちゃいました……切なくて苦しい展開ですが、この先の二人信じて見守って下さいね。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ゆうさん» お久しぶりです!もう、ウタゲ終わってキスブサもおやすみで、本当にニカ不足(・_・、) あ、でも、プレバトは、可愛かった!お話の方は、切ない展開ですが、リアル二階堂くんに癒やされながらがんばります! (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - 由夏さん» ありがとう(ノД`)でも、ちょっと切なすぎる展開。二人が強く心を繋いでいてくれると信じて、書き続けます。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - amiさん» お久しぶりです(*´∀`*)ノamiさん。切ないけれど、お互いを求め、思いやる気持ちが伝わっていたら嬉しいです。思いやるあまりに少しずつズレてしまった思いが、この先、どうなっていくのか見守って下さいね。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - chizuruさん» 秋の夜長のお供になれたでしょうか?こんな切ないシーンお供にしてもいいのかなぁ。でも、そう言ってもらえて嬉しい。そして、どこか当てはまる歌詞が切なさの中に温かさを感じさせてくれる。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:植尾あい | 作成日時:2015年7月23日 7時