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残せない存在 ページ21

プリンを持って、もう一度、リビングに並んで座る。

まるでおやつ前の子供みたいに、片手にスプーンを握って、笑顔でワクワクする。



「「いただきます!」」



声を揃えて言ってから、小瓶に入ったプリンを掬って口へ運ぶ。

フワリととろける舌触りと、卵とバニラの甘い香り。甘さよりも素材の卵の味が優しい。



「うまっ!」


「さすが、真紀だね!すごい美味しい!」



顔を見合わせて笑う。
幸せな香り包まれたリビングに、真紀がいないことが残念に思えた。


きっと、心配してるよね。



「そうだっ!」



思い立って、カウンターに放置されたスマホを取りに行く。



「どうしたの?」



クッションでスプーンをくわえたままのニカが私の動きを目で追う。

スマホのカメラを起動させて、ニカの隣に戻ると、少しだけ距離を離して座った。

そして、カメラを自分に向けて、笑顔を作ると、プリンを乗せたスプーンを口元へ持っていく。



大丈夫。
もう、泣いてないよ。



真紀へ向けたメッセージを込めて、シャッターを切ろうとした瞬間。



「あーーん。」



私のスプーンのプリンを横取りしようとするニカが、スマホ画面に写り込んできた。


シャッターを切ろうとした親指は画面を離れ、スマホを持つ手をゆっくりと下ろした。



「もう………、勝手に入ってこないでよ。」


「なんで?真紀ちゃんに送るんでしょ?」


「………そうだけど。」



私のやろうとしたことを推測するニカの考えは、間違ってない。





「ニカは、………入らないで。」





間違ってないけど、現実を知ってしまった私は、些細なことにも警戒してしまう。


そして、ニカの存在を形として残すことが怖くて堪らない。




「………なんで?」




答えを知ってるニカが、不満そうな声を出す。




私、冷たいかな?


嫌な女だって、思われるかな?




不安と現実と、どうしようもない想いに押し潰されそうになる。





「ニカが………二階堂高嗣くんだから。」





「は?」





「やっぱり……、知っちゃったから。
気にしない訳には、……いかないよ。」





押し潰されて、今にも消えてなくなりそうな想いを、ギリギリのところで守りながら、一人言みたいに呟いた。


ニカの顔なんて、見られない。



「…………そっか。」



消え入りそうなニカの声。


プリンの小瓶にスプーンがぶつかる微かな音と、クッションからニカが立ち上がる音に、肩が震える。



泣かない……、泣かない。

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植尾あい(プロフ) - 千明さん» if聞きながら?!私、自分の書いた妄想のくせに、それやると悲しくて涙ぐむんですよ……どうかしてる。祈りも最近やばいです。シーンタイトルにしちゃいました……切なくて苦しい展開ですが、この先の二人信じて見守って下さいね。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ゆうさん» お久しぶりです!もう、ウタゲ終わってキスブサもおやすみで、本当にニカ不足(・_・、) あ、でも、プレバトは、可愛かった!お話の方は、切ない展開ですが、リアル二階堂くんに癒やされながらがんばります! (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - 由夏さん» ありがとう(ノД`)でも、ちょっと切なすぎる展開。二人が強く心を繋いでいてくれると信じて、書き続けます。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - amiさん» お久しぶりです(*´∀`*)ノamiさん。切ないけれど、お互いを求め、思いやる気持ちが伝わっていたら嬉しいです。思いやるあまりに少しずつズレてしまった思いが、この先、どうなっていくのか見守って下さいね。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - chizuruさん» 秋の夜長のお供になれたでしょうか?こんな切ないシーンお供にしてもいいのかなぁ。でも、そう言ってもらえて嬉しい。そして、どこか当てはまる歌詞が切なさの中に温かさを感じさせてくれる。 (2015年10月7日 8時) (レス) id: bb151ab1c7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:植尾あい | 作成日時:2015年7月23日 7時

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