優しい手 ページ39
冬の夕暮れは早くて、他愛もない話をしている間に深い紺色の夜が窓の外を染めていった。
「なんか、お腹空かないね…。」
「そうだね。だらだら食べちゃったからね。」
真紀が帰って、コーヒーもケーキもなくなって、それでも、クッションに埋もれたままのニカを追い出す理由もなく、居心地のいい時間。
ずっと、続けばいいのに……。
欲張りで強がり、でも、怖がりな自分がそんなことを願う。
同じ空間にいるのに、隣に行くことができない距離が切なさを煽る。
「ねぇ、Aちゃん。」
「ん?」
「このクッション、もう一個買わない?」
ニカからの突然の提案。
「なんで?」
「ん〜…… いっつも、オレばっかり使ってるから。」
「はぁ?それなら、ニカが譲ればいいじゃん。フフッ」
一応、悪いと思ってるのかな?ニカなりに。
そう思うと、微妙な気遣いが可愛くて、意地悪したくなる。
「はいはい、どいてくださーい!」
そう言って、膝立ちのままクッションに埋もれたニカに近づくと、脇腹に手を入れて思いっきり転がす。
「おっ…おうぁっ!!」
突然のことに変な声を出したニカは、クッションから転がり落ちると恨めしそうに私を見上げた。
「もうっ!Aちゃん、雑っ。」
「だって、私のだもーん。イヒヒッ」
そう言って、クッションに埋もれると、残ったニカの温もりと匂いに包まれた。
ギュッとクッションを抱きしめると、徐々に失われていく熱と匂いが切なくて、鼻の奥がツンとする。
顔、上げられない…。
一度覚えてしまったニカの感覚。
心臓の音。
回した腕が触れた背中。
耳に掛かる柔らかな髪。
抱きしめられた腕の強さ。
一気によみがえると、私の心を締め付ける。
「Aちゃん?」
そのままの体勢で動かなくなった私に、ニカの心配そうな声が近づく。
「ンフッ…… 落ち着く。」
気づかれないように、作った笑顔で顔をあげると、覗き込むニカに答える。
ふっと眉を下げたニカが意外に近くて、心の中を見られそうで怖くなる。
「もう…… Aちゃんって、本当に年上?」
困ったみたいな笑顔でそう言ったニカが、クッションに埋もれる私の隣に座りなおす。
「そうだよ。年上のお姉さんだよ。」
答える私に伸ばしたニカの手がゆっくりと髪に触れると、優しい声が言った。
「違うよ。年上の女の子だよ。」
ニカの手は、いつも優しい。
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植尾あい(プロフ) - ちいさん» 生き甲斐だなんてっ!感激です。『欲張り』のあのシーンは、書き始めた時から、絶対に書く!と、決まってたシーンなので気に入って貰えて嬉しいです!仔犬感と大人感のバランス、うまくとりながら、日々、妄想に励みますっ(笑) (2015年3月2日 11時) (レス) id: dd156b7728 (このIDを非表示/違反報告)
ちい(プロフ) - 作者様の作品を読むのが最近わたしの生き甲斐レベルです( ; ; )もう仔犬なのか立派な男なのかわからない魅力的すぎる隣人ニカちゃんに毎日萌えています//私も欲張りのあのシーンたまらなく好きです!溢れ出す妄想、これからも楽しみに読ませていただきますね! (2015年3月2日 2時) (レス) id: 7ce2ec877c (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - aiMyuさん» 通勤のお供になれて光栄です!私的に朝が都合よくて、朝更新してますが…そうですか、不審者(笑)これは、大人な展開は、避けた方がよさそうですね。朝からねぇフフッ。帰宅後に読み返して貰えるなんて!ありがとう。これからもよろしくお願いします! (2015年2月26日 20時) (レス) id: dd156b7728 (このIDを非表示/違反報告)
aiMyu(プロフ) - コメ返しwwあの、あいさんて朝更新してるじゃないですか?私、通勤中に読むんですよね。毎朝、電車内でフゥーって息吐きながら、ニヤニヤしちゃって…私、完全に不審者ですwwそして帰宅してから読み返す♪♪本当に尊敬してます☆ (2015年2月26日 15時) (レス) id: 81939e753e (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - キスマイさん» ハイハイ♪いらっしゃーい(笑)自分でももどかしくなりながら書いてます。でも、皆さんにキュンしてもらえて頑張れます!仕事バラしはねぇ……ウフフ…お楽しみに♪いつでもお喋りしに来て下さいね♪お待ちしてまーす。 (2015年2月26日 8時) (レス) id: dd156b7728 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:植尾あい | 作成日時:2015年1月19日 8時