59.「お気楽お兄さん」 ページ20
透明薬を貰ってから、一度驚かせてやろうと家に帰ったのだが誰も気が付かず。
おそ松が私が何処にいるのか十四松に聞いていたけど、顔を合わせる気なんてなかったからそのまま家を出た。
気付かれないように外を走って、夕暮れになるまで適当に暇を潰していると、ふとおでん屋の屋台が出ていることに気がついた。
散歩程度の軽装だったのでお金なんて持っていなかったが、店主がチビ太だと知って、暖簾を黙ってくぐっていった。
「……お、A。お前がここに来るなんて珍しいな!」
「でしょ。……あ、いいよ。チビ太とお話ししたくなっただけだし、今日お金無いから。」
珍しい訪問客に気を浮かせたのか、チビ太がお皿と箸を私の方へ差し出したが、それをやんわりと断った。
すればチビ太は、ツケなんて日常茶飯事だから、とお皿に餅巾着を二つ乗っけてコトリと置いた。
「……それに、何かあったんだろ?話聞いてやるからよ、ゆっくりしていけよ、バーロー。」
チビ太に中々痛いところを突かれ、ぐぐっと思わず唸りを上げてしまう。
そうだ、本当は誰かに愚痴を聞いて欲しかったのかもしれない。
昔からチビ太には愚痴を聞いてもらっていたから、そのせいもあるのかもしれない。
____
「チビ太くんは、いいね」
昔、私よりもずっと背の小さい彼に不意をついてそう呟いたことがある。
チビ太は不思議そうに首を傾げて、小さく唸った。
「なんでぇ?Aちゃんだって、たくさんお兄ちゃんがいて楽しそうなのに」
「……でも、チビ太くんはひとりっ子で、周りからの威圧っていうのが無いでしょ?……私、重圧のない自由な世界で気楽に生きたいなあ」
「……Aちゃん、何かあったの〜?おはなしきくよ」
今よりもずっと柔らかい口調で、擦り寄るようにこちらの話を聞いてくれたチビ太は、今はこうして立派な大人となっているのだ。
私は、未だモラトリアムを続けている。
「……透明薬、ねぇ。………。……あっ、メールだ」
ふと、チビ太が携帯を取り出してメールを見始めた。
そうしてわたしの方を見遣って、返信を送信する音が聞こえてきた。
「……、仲直り、したいんだろ?だったら、自分から歩み寄る努力ってのも時には必要だってんだ、バーロー。………頑張れ。逃げるな、A!」
夜の静けさの奥で、2人分の足音が聞こえてくる。
きっとそれは私のよく知るもので、相手も私のことを、悲しいほどによく知っている。
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紫垣(プロフ) - 続きが待ち遠しい!!……もっと見つけるのが早かったらまだ更新続いてたのかな( ; ; ) (4月18日 5時) (レス) @page21 id: f62f374630 (このIDを非表示/違反報告)
燎_*(プロフ) - 更新停止……だと!?!?!?誰か、!!この作者を呼び戻してこい!!! (1月17日 3時) (レス) @page21 id: 4b8e8fd2cd (このIDを非表示/違反報告)
低浮上な塩なんだなあ(プロフ) - つ、続きは…続きは何処ですか…!?!?(血涙)更新をずっと楽しみに待っております…… (10月30日 2時) (レス) @page21 id: 6cf2860157 (このIDを非表示/違反報告)
みゆ - この作品が大好きです。更新待ってます! (6月4日 22時) (レス) @page21 id: 395eb4f5e7 (このIDを非表示/違反報告)
ゆらっち(プロフ) - 何年でも更新を待ちます。 (2022年5月15日 0時) (レス) @page21 id: ab3ad11547 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:竹ノ狐。 | 作成日時:2016年1月17日 17時