38.「ぐずぐずで」 ページ39
「5番でお待ちの松野様、こちらへどうぞ」
松野と呼ばれたのはいつ振りだろうか。
みんなAちゃん、とかAさんと呼ぶものだから、松野という苗字すら忘れかけていた。
「ほら、いくよ。……立てる？」
カラ松に腕を貸して立ち上がらせる。
家族と外へ出るのも、ご飯を食べるのも久しぶりのことだ。
さっきはカラ松の寝ぼけように圧倒されていたが、今になってそう思った。
「失礼します、お願いします」
ガラガラと扉を開けると、優しそうな主治医の先生が席に座っていた。
「こんにちは、どうぞ腰掛けてください。」
70代くらいだろうか。
みるからに気の良さそうな先生。
「いい人」だ。
「今回はどのような症状で？」
「あっ、えっと。上から物がたくさん落ちてきたといいますか、当たったら痛そうな落下物にぶつかって気絶してしまって…。」
カラ松は緊張を隠せない様子でおどおどと、限りなく焦点のぼやけた説明を始めた。
後ろから見るとなかなかに面白い。
当たったら痛そうな落下物って何なんだ。
植木鉢か何かか。
「なるほど。どういったものが落ちてきたんだい？」
「んーと……、……か、花瓶がたくさん…？？」
散々に悩んだ結果、一番違和感のない花瓶が大量に降り注いできたという設定で貫くことにしたらしい。
普通に違和感垂れ流しなんだけどなあ…。
「花瓶がたくさんかあ…。珍しい現場に直面したんだね。何個くらい落ちてきたのかな？」
「普通のやつと平べったいやつと、細長いやつと茶碗みたいなやつと、ひたすら重くて痛そうなやつの5つです。次々に落ちてきました」
ちゃんと何が落ちてきたのか記憶していたのか。
というか何だそのラインナップは。
どれだけ多種多様なる花瓶を揃えてるんだその家は。
余計に違和感が半端ないから。
「それは災難だったねぇ……。そしたら精密検査をした方がいいね。看護師についていってください。付き添いの君は結構待ち時間があるから、一回席を外しても構いませんよ。」
病院は苦手だ。
待たされるらしい。
一回帰っても構わないらしい。
帰るしかないじゃないか。
「……カラ松、終わったら連絡して。あと治療費も聞いておいてくれる？」
「了解した。兄たちによろし……、ごめん何でもない」
はっとしたように言葉を訂正した。
まだカラ松と十四松にしか気を許せていないからなあ…。
「十四松には言っとく。それじゃ」
病院の匂いはキツかった。
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kuu - これいちいち歌の歌詞になってますね、 (2022年1月1日 12時) (
レス) @page38 id: f964c54957 (このIDを非表示/違反報告)
kuu - 面白いです、これからシリアスだったり恋愛がある、が楽しみです (2022年1月1日 10時) (レス) @page1 id: f964c54957 (このIDを非表示/違反報告)
あみ - 最高すぎます (2020年9月24日 2時) (レス) id: e43e7b87c6 (このIDを非表示/違反報告)
偶数LOVE！(心々) - なるべく早く更新してくださいっ……！……お願いです………………本当に楽しみすぎるのですよっ！！ (2019年9月7日 18時) (レス) id: 01d7da7a06 (このIDを非表示/違反報告)
偶数LOVE！(心々) - なんでこんなに文才があるのですか？？これは絶対ず〜っと！過去最高1位ですねっ！！(納得です♪)どんな小説の中でも1番好きですっ！(本当に) 星なんかいも押したいけど、前も押したからムリだ……… (2019年9月7日 18時) (レス) id: 01d7da7a06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：竹ノ狐。 | 作成日時：2015年11月26日 1時
