■84.臆病恋愛論 ページ4
***
彼女の頭の後ろに左手を差し込んで、
ゆっくりと顔を寄せていく。
あと少し、…あと少しで唇が触れそうだというところで、
Aの肩が、小さく震えているのが見えた。
一瞬我に帰り距離をとると、
彼女の目はぎゅっと強く閉ざされていて、
目じりには涙が溜まっていた。
.
.
｢…………なお…き…？｣
直輝｢………………………やめた。｣
｢……えっ、な……なんで…、｣
直輝｢…気分じゃなくなった。｣
.
そんな嘘を吐きながら彼女から離れようとすると、
腕をぎゅっと強く掴まれた。
.
｢…や…やだ直輝…っ！｣
直輝｢…離して、｣
｢…やだ…っ…、…ねえ、お願い…！｣
.
嫌だ嫌だとしゃくりをあげて泣き出すAを見て、
頼むからこれ以上煽るのはやめてくれと思う。
こっちがどんな気持ちでドロドロとした黒い感情を
押し殺していると思っているんだ。
.
己の欲のままに君を抱いて、
その白い肌に自分の印をたくさんつけて、噛み付いて、
高まりすぎた熱を君にぶつけたら、
どれだけ満たされるだろうか…。
.
でも、それと同時に、
自分のものにしてしまうのが怖いと思っている。
復讐のためには手段を選ばないと決めたあの日から、
心のどこかで
自分の身にいつなにがあってもしょうがない
と思っている。
大切すぎる彼女を、
万が一にも、突然、一人残してしまった時が辛い。
それなら、自分が生きているうちに、
自分からしっかりと別れを告げるべきではないか…。と。
.
.
直輝｢………Aにはしないよ、｣
君の顔を見れずに、後ろを向いたままそう言うと、
ぎゅっと掴まれていた腕は静かに解かれた。
***
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作者名：紙兎
| 作成日時：2020年3月16日 7時
