□34.嫌いじゃない ページ34
***
｢…直輝のこと嫌いになりそう…。｣
.
映画が始まって1時間程が経った。
ホラー映画というのは、緩急が激しくて、
効果音などで大きな音がなる度にﾋﾞｸｯと肩を震わせてしまう。
それを見て、心底楽しそうな様子の直輝を睨みながら
そんなことを言ってみた。
.
直輝｢それはやだ。｣
｢…知らない。｣
直輝｢やだ。｣
｢…嫌い。｣
直輝｢やだ。｣
.
やだ、しか言わなくなってしまった直輝。
珍しくムキになっているのが可愛い。
あれ？もしかして今、私、主導権握ってる？
って感動するけど、
…そんなの長続きするわけもなくて。
.
直輝｢嫌いなら離れて。｣
｢…えっ、｣
直輝｢…嫌いなんでしょ？｣
｢…ま、まって…！｣
すぐに形勢逆転。
あっという間に劣勢に。
.
｢…っ、…やっぱ、嫌いじゃ…ない。｣
直輝｢…ん、ならいいや。｣
.
“好き”って言ったら困るくせに。
“嫌い”って言ったら怒るんだ。
だから、“嫌いじゃない”って言うのが精一杯で、
それ以上は、何かが壊れてしまいそうで言えない。
望んでくれればいいのに。
嫌いじゃない、以上の言葉を。
好き、って言ってよ。って。
嫌いじゃない、なんかじゃ収まりきらない思いが、
溢れだしそうになって怖くて、
ぎゅ、っと正面から直輝に抱きついた。
***
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作者名：紙兎
| 作成日時：2020年1月21日 0時
