【刀ミュ】最年少の高校生男子は秋田藤四郎になりました

35　男 ページ38

ホールの外通路をぐるっと回って
客席への扉を目指す。

時間には結構余裕があるが、
遅れては不味いので楽屋から走ってきた。


『次は客降りです！いってきま〜す』


扉の傍で待機していたカメラさんに
忘れず手を振る。

毎日何かしらを撮られている生活にも、もうだいぶ慣れてきたと思う。



石切丸さんのソロ曲が終わった
と同時に扉が開かれる。


『主君！盛り上がって頂けていますか〜？』


客席を埋め尽くす歓声
色とりどりのライトと応援うちわが揺れた。


例え推しキャラでなくとも、手を振れば
笑顔で盛りあがって頂けるのが凄く嬉しい。
改めてファン層の良さを感じた


『今から僕達がお傍に行って
主君達をもっと笑顔にしちゃいますよ！』


いつも通りのセリフを言って歩き出した。







「主様も僕達と一緒に踊って下さい！」


ここからは、お客さん達と一緒に躍れる
手振りがある。

お手本になる手振りがお客さんから見えやすいように 2階に移動した。


『行きますよ！せーのっ』


歌に合わせて手を動かすと
お客さん達も真似して踊ってくれている。



その時、一瞬だけ横目にチラリと捉えた
客席のある場所が気にかかった。

そこには確かに人が座っているのが見えたが
動く素振りはなく、ペンライトも振っていないようだった。


もちろんそういうお客さんも時々居るし、
応援の仕方は人それぞれ。

…だけどせっかく観に来てくれたんだ


『もっと元気に行きましょう！』





それなら盛り上げよう、と其方を向いて


……すぐに後悔した。



全身からどっと冷や汗が吹き出る。
喉から、声にならない空気が漏れた


違う あの人は客なんかじゃない。
あの人はこの舞台を観にきたんじゃない。

最初からずっと僕だけを見ていたんだ。


「〜〜〜」


鶴丸さんの歌う声にハッとする。
無理やり笑顔を作り、自分のパートを歌った

その声は自分でも震えているのが分かった




なんとか最後まで歌いきって、挨拶もそこそこに扉から退場する。


一瞬で体の力が抜けた。
立っていられなくなって、廊下の冷たい床に膝を着く。



時間にしたらほんの数秒
でも、すごく長い時間あの人と目が合っていたような気がする。

脳裏に張り付いた笑顔がひどく恐ろしかった

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