空中遊泳

. ページ44

'


「来年の今日はなにしてるかなぁ」
「またこんな感じなんじゃね？」
「もしかして別れてるとか？」
「それはありえねぇわ」
「拓司の浮気が原因で…」
「いやいや、ないない！Aが俺を捨てていくとかならあるかもよ？」
「そんなひどい女じゃないですー」


泣き真似でかわいそうな俺…！と打ちひしがれたふりをする彼をよそに、コンビニで割引されていたケーキを口に運ぶ。

クリスマスという名を冠するだけで価値が上がったり下がったりするのはかわいそうな気もするけど、その恩恵にあやかっているのだから悪くはいえない。


「ま、きっと来年もそれなりに楽しく過ごせますよ」
「拓司と一緒にいられたらいいなぁ」
「俺もAにいてほしいなー」
「一人増えてたりして、」
「なんで？」
「子供？」
「……うわ、やば、それ最高、」




夜が明けたら続々とクリスマスツリーが門松に変わり、世の中も急ピッチで新年へとシフトしていくんだろう。

今年は帰省しないと決めたから、彼と過ごせる時間は長そうだ。


「まだ終わってないよな、クリスマス」
「ん、まだ25日だよ」
「聖夜ね、聖夜」
「うん？」
「来年は三人かー」
「なんの話？」
「セイヤの話」
「えぇ？」


はやく、と寝室に向かう彼に何かを察したけれど、そんなこともまあいいかと受け入れてしまえるのはクリスマスという魔法のせいか、はたまた。


「…どうしたのその帽子」
「百均で買った、似合うっしょ？」
「うーん、どうだろう？」
「おいーそこは似合ってるって言ってくれよー」
「あはは、うそうそ！ちゃんと似合ってるよ、私だけのサンタさん」
「えっ、それズルい、もう無理！」


目の前のサンタさんが人生で一番のプレゼントだなぁなんて、彼につられてそんな浮ついたことを考え始めたベッドの横には、彼が手配した控えめなツリーが飾られていた。


.

よろしくどうぞ:izw→←うたげのあと:izw

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す