空中遊泳

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「相手に伝えてみないとわかりませんよ」
「いやあ、伝えても結果は変わらねぇと思うよ。それに俺は彼女との関係も、彼女の好きな人との関係も、このまま大事にしておきたいからさ」
「二人とも知ってる人なんですね」
「うん、どっちも俺の大切な人。だからこそ無理に関係を壊すようなことはしたくなくて、」


つとめて明るく振る舞う伊沢さんを見てこちらの心が痛くなる。




「どんな人なんですか？そのお相手って、」


こんなに優しい人が想う相手なんだから、さぞ素敵な人なんだろう。


「えー、そうだなぁ……かわいくて気遣いもできるし、こんな俺とも二人きりで飲んでくれるような、優しい子だよ」



どきり、心臓が跳ねて掴まれたように苦しい。



「それに彼女が好きな人も、自分を持ってて、口数は少ないけど仲間想いでいいヤツなんだ」



まさか、そんなこと、まさか、ね。







「俺さぁ、正直、」




遠く、ジャジーなBGMが聞こえている。


そちらへ耳を傾けようとしても、まるで制御の利かない意識は目の前の彼にばかり向かっていた。





「本当は、好きな人が好きな人、になりたいと思ってんの」


「彼女が幸せならそれでいいなんて願えないから、俺もまだまだ子供だよな」






自嘲気味に呟いた伊沢さんの手元で気の抜けはじめたシャンパンがくるくる回る。



その悲哀に満ちた表情を、私は直視することができなかった。


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