空中遊泳

仮病であって仮病でない:izw ページ18

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「Aせんせー、かぜひいたー」


年季の入ったドアをガラガラと開ければそこにはほら、


「あ、その顔はまたサボりだね伊沢くん」


きれいでかわいくて大好きなせんせー。


「ほんとにかぜだから休ませて」
「熱測って、37.5℃こえてたら休んでいっていいよ」
「マジ？いったね？」


渡された体温計をわきにはさむフリだけして勢いよくこすると、あっコラ！と叫んだせんせーに取り上げられた。熱測れって言ったのに。


「まだ測ってねぇじゃん」
「ズルしていいなんて言ってません」
「えーAせんせーのケチー」
「ここはおサボりさんを匿うところじゃないの」


はいはい、とかテキトーに相槌を打ちながらそれとなく移動してベッドに腰掛けると、またせんせーの声が飛ぶ。


「もー、いい加減にしてよね」
「やだ」
「戻らないの」
「うん」
「……しょうがないなぁ、」


机に向かうせんせーにありがとーと声をかけたら弱々しく振られる手のひら。


なんかしら書かなきゃいけないらしい紙にペンを走らせ、時折髪をかき上げる姿がセクシーで思春期のおれには刺激がつよい。


「1時間だけだからね」
「はーい」
「ほんとにわかってるのかな…」
「わーかってるって」

普段全然会えないせんせーと1時間も一緒にいられるなんて最高じゃん。

「3組だっけ？」
「うんそう」
「頭は良いのにねぇ」
「なに？」
「こんな悪知恵ばっかり…」
「せんせーったら生徒にむかってひでぇの」
「サボりにサボるからでしょう」

これはサボってんじゃなくてせんせーに会いに来てんの。
こんな硬いベッドなんて本当はお断りだよまったく。





「……たくしって、」
「っえ？」
「たくし、って開拓のたくにつかさどる？」
「え、あうん、そうそう」
「そっか、ありがと」


いきなり名前で呼ばれるからなにかと思った。
別になんてことない会話なのに柄にもなくどきどきする。


たとえば彼氏、になったら、ふつーに名前で呼ぶ派なのかな、せんせーは。


「ねぇせんせ、」
「んー？」
「また明日もきていい？」
「ここはたまり場じゃありませんよ」
「せんせーに会いにくる」
「え？」
「せんせーが理由ならいい？」


ペンの動きをとめてやっとふり向いたせんせーは、困ったような笑っているような、はじめて見る表情でおれを見てた。



「……まぁ、明日もかぜ、ひけるといいね」



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