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それは男女の物語、平々凡々な男が眉目秀麗な女性に恋に落ちるものだが、結末はまだ決まっていない。
「何というか、差し詰め私小説と変わりないものだけれど…」
「そうなのですね。おこがましいですが、素敵なお話になると思います」
「そう、それなら良かったよ…」
少しほっとした表情の彼にこちらも胸を撫でおろす。
しかし続けて彼が放った言葉でそれはかなりの昂りを見せることになった。
「…実は、本当はこれ、私の願望でね」
「願望ですか…?」
「うん、この主人公は私で、相手は君」
「…え、?」
「結末が分からないのはまだ経験していないからで、」
そう言った彼の瞳が、薄明かりの中ではっきりとこちらを掴んで離さない。
「Aに恋をしているようなんだ、私は、」
着物を掴んでいた筈の手はいつの間にかこちらの両手を包み込んでいて、見上げる彼の顔には不思議な表情が浮かぶ。
「幸せな結末が書きたいんだが、君はどう思うだろうか」
優しく微笑む彼に尋ねられた答えが悲劇になるなんて、そんなこと、
「……私は、幸福な物語を読み続けたいです」
「ああ、」
「もちろん、主人公も幸せな人生を送れるお話なのですよね…?」
「そうなったら、一番いいかもしれないね」
そっと引き寄せられた胸の中は暖かく、薄明かりで全ての輪郭がぼやけているのがちょうど良かった。
「Aは綺麗に笑うね」
いつか彼はそう言った。
最後はそんな顔で終われたらいいと思う。
私も、そして彼も。
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リクエストより「文豪とその文豪に憧れる侍女の一人」でした。
果たして文豪感が出ているかどうかは分かりませんが、いかがでしたでしょうか。
その他リクエスト、作者Twitterなどは「こちら」から。
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キタ(プロフ) - あんころさん» ありがとうございます!キャラが定まってない感じもありますが大丈夫でしたでしょうか…?どうしても不定期になってしまいますが、更新の予定はありますのでまたよろしくお願いします(*^^*) (2020年4月6日 1時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
あんころ - kwmrさんだいすき人間なのですが、どれも好みどストライクでもう…!!!キタさんのペースで頑張ってください!応援しています!! (2020年4月2日 2時) (レス) id: 4b7a069960 (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - ぽさん» お返事遅くなってしまってすみません!一作目からありがとうございます。更新も不定期ですが、なんとかご期待に応えられるように頑張りますので、今後もよろしくお願いします。 (2019年12月9日 21時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
ぽ(プロフ) - キタさんお久しぶりです><「平凡、即ち人生」がドストライクすぎました、、!!キタさんの書く文章が大好きです:-)これからも応援しています。 (2019年12月5日 20時) (レス) id: 7700f16782 (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - ちるさん» コメントありがとうございます。沢山のお褒めの言葉をいただけてとても嬉しいです。マイペースにはなりますが、色々と更新していきたいと思います。今後もよろしくお願いします! (2019年10月31日 23時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キタ | 作成日時:2019年10月29日 14時