来ない夜明けを期待して:izw ページ1
'
朝が夜を侵食する午前五時、ふと目を覚まし、ベッドから抜け出してベランダへと繰り出した。
秋のこの時間は既に冷たい空気が肌を刺す。
「…どうしたの、こんな早起きして」
見下ろした先で気ままに歩く猫を目で追っていると、後ろからしゃがれた声に話しかけられる。
「あ、おはよう」
「何かあったの?」
「ううん、変な時間に起きたら眠れなくなっちゃって」
「あっそう、ならいいんだけど」
同じくベランダへ降りてきた彼が手摺で頬杖をついた。
残る眠気と無い眼鏡の所為か、細められた目が遠くを見つめている。
同じように頬杖をつくと金具に触れた腕の温度が下がっていく。
遠くの空はまだ暗い。
「母さんたち今日帰ってくるんだっけ?」
「うん、夕方だって。私にも拓司くんにもお土産買ったって昨日連絡来てた」
「そうなんだ。Aと二人きりもそろそろおしまいってことね」
「残念?」
「そりゃあな。こんな機会早々無いし」
「お母さん、良い所で邪魔してくるもんね」
「本人はそんな気無さそうだけど一番タチ悪いよな」
少し寒さが増してきて手摺から手を離す代わりに、温もりを求めて隣の腰に後ろから手を回した。
「これも、出来なくなっちゃうね」
「俺はいつやってもらって構わないけど」
「人目があるでしょ」
「兄妹なのにって?」
「…うん、」
顔ごと埋めた背中から伝わる呼吸は規則的で、酷く乱れる自分のものとは大違いだった。
焦りとか、人の目とか、そんなもの全く意に介していない、至極平穏なもので。
「別に誰が何を言おうと好きなものは好きだよ」
「それは私もだけど、」
「じゃあそれで良いじゃん」
「でも…」
「大々的に発信しなくてもいいけど、自分を否定してまで隠す事でもねぇよ」
「…うん」
「紙切れや金属に拘る奴らよりよっぽどプラトニックだろ、俺らのほうが」
いつの間にか重ねられていた腕がじんわりと温かい。
顔を上げると、地平線が仄かに白んできているのが見えた。
「拓司くん」
「何?」
「キスして」
「勿論」
振り返った彼から降るキスが去り際の闇に溶けていく。
時折額を合わせて見つめれば、同じように返される優しい微笑みが何より愛しかった。
「母さん帰ってくるまで何する?」
「このままがいい」
「風邪引くぞ」
「じゃあ中でする」
「キスだけで止まんねぇかもよ」
「それでもいい」
灯りの消えたままの部屋へ手を引かれていく。
後ろ手に閉めたカーテンの背後には朝日が差し込んでいた。
.
200人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
キタ(プロフ) - あんころさん» ありがとうございます!キャラが定まってない感じもありますが大丈夫でしたでしょうか…?どうしても不定期になってしまいますが、更新の予定はありますのでまたよろしくお願いします(*^^*) (2020年4月6日 1時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
あんころ - kwmrさんだいすき人間なのですが、どれも好みどストライクでもう…!!!キタさんのペースで頑張ってください!応援しています!! (2020年4月2日 2時) (レス) id: 4b7a069960 (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - ぽさん» お返事遅くなってしまってすみません!一作目からありがとうございます。更新も不定期ですが、なんとかご期待に応えられるように頑張りますので、今後もよろしくお願いします。 (2019年12月9日 21時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
ぽ(プロフ) - キタさんお久しぶりです><「平凡、即ち人生」がドストライクすぎました、、!!キタさんの書く文章が大好きです:-)これからも応援しています。 (2019年12月5日 20時) (レス) id: 7700f16782 (このIDを非表示/違反報告)
キタ(プロフ) - ちるさん» コメントありがとうございます。沢山のお褒めの言葉をいただけてとても嬉しいです。マイペースにはなりますが、色々と更新していきたいと思います。今後もよろしくお願いします! (2019年10月31日 23時) (レス) id: 287acd08f7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:キタ | 作成日時:2019年10月29日 14時