愛を込めて花束を2【降谷零】

09話 ページ8

『私の幸せは…この場所にしかないんです。』

あれはどういう意味だったのか。
優しい彼女なりの、断り文句だったんだろうか。

『なんでも、あの子のお兄ちゃんの命日なんだとさ。
あの店も、元々はそのお兄ちゃんがやってたのを引き継いだって聞いたよ。』

俺はあの表情の訳を知ってる。
あれは、自分の心を殺した人間の顔だ。
自分を責めて、責めて、責め続けて、涙を流す事が出来なくなった人間の顔だ。

一体、どうして。
いくら考えようが、酔いの冷めた頭でも答えが出る事はなかった。









風見は困惑した。

(どこから突っ込めば良いんですか降谷さん…。
え、フラれた…？
え、誰に、いや、あの人だよな…。
でもフラれるってどんな感じか聞いてくるという事はまだフラれた訳じゃない…？
そもそもこの人は、人生で一度もフラれた事が…ある訳ないよな、この人が。)

「1人で百面相してどうした？風見」

どうした？じゃないだろう、降谷さん。



気を取り直すかの様に風見は頭をブルブルと振るった。
改めて上司である降谷と向き合うと、そこには、特に思い詰めた様子もなく純粋にただ質問しているだけという顔の降谷の姿があった。

「フ、フラれた、んですか…？」

(よく切り込んだ風見ぃぃぃぃーっ‼‼)

何食わぬ顔で手を動かしながらも、2人の様子を固唾を飲んで見守る同僚達は心の中で風見へエールを送る。

「…分からないから聞いてるんだ。」

「…その、告白に対して謝罪されたっとかでは」

「ない。」

「その、なんて言われたのかお伺いしても…？」

風見は言葉を選びながら恐る恐る降谷へ尋ねる。
当の降谷は、顎に手を当てて何か考えた様な素振りを見せた後、口を開いた。

「自分の幸せは、ここにしかない。」

「…え」

「記憶が曖昧な部分はあるが、その言葉だけはハッキリ覚えてる。
俺に向けて言ったのか、独り言だったのかは微妙だが…」

「それは…」

(この人が記憶が曖昧…？
そういや昨日、理事官が降谷さんを飲みに誘うって言ってた気が…。
まさか、いや、え、この降谷さんに限って、酒の勢いで…っ⁉)

「何か失礼な事考えてないか」

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