愛を込めて花束を2【降谷零】

12話 ページ46

「Aさんが良いんだよ。
手、出して。」

降谷の囁くような声を聞き、Aは花束をすぐ横のカウンターに置いた。

「えっと…」

「勿論、左手。」

降谷は、降谷の言葉が左右どちらの手を指すのか悩んだAの左手をそっと取り、その下には降谷の左手が添えられた。
箱から取り出されたシルバーリングが、降谷の手によりAの左薬指にゆっくりと運ばれる。

”浮腫んでなくて良かった…”と、ムードの欠片もない事をAが思っている事などつゆ知らず、降谷はするすると通る指輪を満足気に眺めていた。
やがて、指輪はピッタリと嵌った。
それはまるで

「シンデレラみたい…」

まさか同じ事をAも思っただなんて、そんな些細な事でも嬉しくて
悩みに悩んで選び抜いた指輪を嵌めたAの姿が愛しくて

降谷はAを抱き寄せた。



Aの腕が、ゆっくりと降谷の首に回される。
昨日と違うその距離に、降谷は感情を持て余す。

「Aさんのお義父さんに許して貰えるかな」

「え？」

「柔道4段のお兄さんより強くなきゃいけないんだろう？
一応、お兄さんからはお墨付きを貰ってるんだけど。」

「零さん、細いですもんね。」

「鍛えてはあるよ、…見せようか？」

「ここお店ですよ、お客様。」

「ハハ、冗談だよ。
でも、これでも警察学校時代は負けた事ないんだ。
流石に柔道部みたいな奴とはやった事ないけど。」

降谷の首に回された腕が緩められる。
ほんの少しだけ離れ、Aは降谷と向き合い、目を見てふんわりと笑って言った。

「…大丈夫です。
私が大好きなので、貴方は世界で一番格好良いです。」

身に覚えのある直球な言葉に、降谷は堪らず再び距離を詰める。
お互いの額を合わせると、恥ずかしさからAが笑う。
降谷も笑う。

(どんなAさんも良いけど、やっぱりこれが一番だな。)

何の取り繕いもない、年相応に顔をクシャっとさせて笑うAを見て、降谷は改めて思った。
そのままの、Aが一番だと。


そして、2人の距離は再びゼロになる。






同時に降谷は、込み上げてくる感情に戸惑った。
”好き”でも、愛という言葉で括っても足りない、この気持ちを人はなんと呼ぶのだろう。


(ああ…、なるほど…そういう事か…。)


きっとその答えは、人生を謳歌して、永遠の眠りに就く時に分かるのだろう。

その答えを探して、人は共に生きるのだ。

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