愛を込めて花束を2【降谷零】

12話 ページ40

降谷は、左手を後ろに隠したまま暖簾を潜り、引き戸を引いた。
背中に隠した物が、カサリと音を立てる。
丁度Aは、降谷の食べ終えた食器を片付け終わった所の様で、ダスターでテーブルを拭いていた。

「今、デザート用意しますね。」

「いや、」

デザートを取りに行こうと、カウンター内に足を向けたAを降谷は片手で制した。
Aはその場で動きを止め、キョトンした顔を降谷に向ける。

「そのまま、聞いて欲しい。」


あの日を、やり直させて欲しい。







静かに、降谷は口を開いた。

「俺は、とある事情で数年間、降谷零を殺して生きてきた。
ようやく降谷零に戻れた時には、大切な物は全てこの手からこぼれ落ちてた。
あいつらは俺を置いて居なくなって
周りは俺を置いてどんどん進んでく。
俺に残されてるものなんて、何一つないと思ってた。
心の何処かでは、いつ死んでも良いとさえ思ってた。」

「……」

「けど、貴女と出会った。」

降谷は真っ直ぐにAを見つめる。

「貴女と居ると、心が休まる。
貴女と居ると、時間が経つのが異常に早い。
貴女の前では、俺は弱くなる。」


本当は、本当の俺は強くなんてない。


「でも、貴女の事を考えると、強くなれる気がする。」

それはまるで魔法のようで。


「貴女と居ると、本当の自分で居られる。」

降谷は背中に隠した左手を握りしめ、深く深呼吸をした。
心臓がドクドクと、迫ってくるかのような感覚。





「貴女と居ると、この先をもっと生きたくなる。」






自分にもまだこんな感情が残ってたんだって驚かされる。

生きていてくれてありがとう？
御礼を言うのは、俺の方だ。


「あの時、本当はまだ思いを告げるつもりはなかった。
まだ…覚悟がなかったから。」

「覚悟？」

「生きる、覚悟だ。」


あまりに真剣な降谷の表情に、Aは息を飲んだ。

「あの日、酒の勢いに負けた事は謝る。
でも、あの言葉に嘘は無い。」



どんな花ならこの想いを伝える事が出来るだろう。

彼女の全てをまだ知った訳じゃないけれど、この気持ちを愛と呼ばずになんと呼ぶ？



「俺は、貴女と幸せになりたい。
これからの貴女の時間を、俺にくれないか。」


やっぱりこの花しかなかった。


「貴女が好きです。」


差し出したのは、11本の真っ赤な薔薇。




【薔薇(赤)×11本:最愛】

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