愛を込めて花束を2【降谷零】

11話 ページ32

降谷が暖簾を潜ったのは22時45分過ぎ。
現在、時刻は閉店時間を優に超えている。
今更ながら、すっかり夜も更けた街をA一人帰すのは忍びなく思い、客と店主の垣根を越えて、降谷は自宅(もしくは周辺)まで送ることを申し出た。

後片付けにまだ時間がかかる事を理由に始めは渋ったAだったが、だったら尚更自分に送られて欲しい、と姿勢を崩さない降谷に、Aが根負けする形となった。
Aが後片付けしている間、降谷は一度店を離れ、自宅まで愛車であるRX-7を取りに向かったのである。







ー降谷の愛車 RX-7車内ー

「折角お家に帰られたのに、戻ってわざわざ送って頂くなんて…すみません。」

申し訳なさげにペコリと頭を下げたAは、再び女将としての顔だ。
仕方ない、早まるな、と自制しながら、それでも降谷はチラリとAに視線を向け言った。


「俺としては、ありがとうの方が嬉しいかな。」

「…ありがとう、ございます。」

「うーん…」


困った様に唸る降谷の言わんとしている事を悟ったのか、Aも困った様に続けた。


「敬語は癖みたいなものなので…その…」

「ふーん…」


先ほど”してやったり”と悪戯な笑みを浮かべたAに対しての、降谷なりの細やかな反撃だった。


「努力しま……努力、頑張る。」

「…っ、なんでカタコトになるんだ…っ」


降谷は片手でしっかりとハンドリングしながらも、肩を小さく震わせて笑った。
車内には和やかな空気が流れる。
夜も遅いこの時間、他に走る車もなく白いボディは滑らかに、スムーズに走り続ける。
徒歩と車では、時間に対して進む距離が余りにも違う。
ドライブは長くは続かない。

「あ、そこのセ○ンイレブンのすぐ近くのアパートなので…」

「あの辺？」

「はい。」

車は徐行する。
辺りを見回すと、ここ一帯はアパートが立ち並んでいる様だった。
しかし、通り過ぎたコンビニの街灯が煌々としている為、暗さは感じない。

(けど、オートロックじゃないな…)

「大丈夫ですよ。
家に居ること自体少ないのでセールスとかも遭わないし。
まぁ、郵便受けは化粧品とかのチラシでいっぱいなりますけどね。」

(女性の一人暮らしってバレてるって事だろ…)

辺りを見回した降谷の考えはAに筒抜けだった様だが、降谷の心配は尽きない。

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