*:..。o○☆アイノカタチ3*:..。o○☆○o

127、今更な想い ページ29

そんなわけないのはわかってるけど、自分の心臓が耳元にあるみたいに大きな鼓動が聞こえてくるようで。

「だ、暖房暑くなって来たね」

誤魔化すみたいに少し窓を開けたら。
私を見て川島がまた吹き出すみたいに軽く笑った。


「なんだ。ならあんなへこむ必要なかったのか｣

「…へこんだの？」

「へこんだ！嫌われたと思ってたから連絡もしづらかったし」



……うそ。だから急に連絡が来なくなったの？



「まぁ今さらこんなこと言ってもしかたないんだけど｣

はは、って。困ったように笑った川島が、窓の外に視線を移した。


…今さら。
確かに今さら、だ。

フロントガラスから見える冬の海は、変わらずキラキラ光を放つ。


昔話なのに。
今さらこんな話をしたってどうにもならないってわかってるのに。


どうしようもなくときめくこの胸も
あの時、急に帰ったりしなければ、と後悔してしまうこの想いも

昔話で終わらせたくないって叫んでいるようで。



「川島、私……っ」


小さく震えてしまう唇を慌ててきゅっと噛みしめた。

そんな私を少し首を傾げた川島が見た。



目が合った。

あの頃と同じ。
逸らせない。
私を真っ直ぐ見つめるこの瞳に、私の全神経が持って行かれる。


「…栗原？」


だけどあの頃とは違うんだよね。

私の想いは、川島を困らせるだけだってわかってる。
だって川島は、あの頃のことを笑って話せるほど
私とのことはちゃんと過去になっているのだから。



「栗原？どうしたの」

「…ううん、なんでもない｣

「…なんだよ｣



だから私は、伝えちゃいけない。



「…そろそろ帰る？｣

そう言ってシートベルトを締め直した川島。

車がゆっくりと動き出す。



何も言わない私に川島も何も聞かずに。

二人を乗せた車は、すぐに私の家に着いた。





「これ、ありがとう」

微妙な空気を感じながら借りていたダウンジャケットを川島に返すと。

「…あのさ！」

川島が少し大きな声を出した。


「栗原、携帯聞いていい？」

「あ、うん」



もう二度と登録されることのないと思っていた名前が

私の携帯に戻って来た。



そして

「ありがとう」と言った川島が

「また電話するから」


あの頃と同じ言葉と笑顔を残して帰って行った。

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