１７ song. ページ18
「おはようございます！」
天気の良い朝。男子寮のリビングに一歩入り、挨拶のあとに腰を折りまげる心春。
顔を上げればキッチンには朝食を作る三月とお手伝いをしている壮五、ソファには空き缶に囲まれた大和のお世話をする陸、食卓でコーヒーを飲む一織がそれぞれ挨拶を返した。ナギと環はまだ夢の中だ。
「そういえば今日からだったな、一織たちの高校に転校するの」
「は、はい！」
心春の制服を見た陸が「すっごく似合ってるよ！」と素直な誉め言葉を送る。照れ臭く思いながらも彼女は感謝の言葉を返した。
今日から心春は、新しい学校へ通いはじめる。
心春が以前通っていた女子高は寮からは遠く、学校終わりのレッスン時間の確保や作曲の時間があまりとれないこともあったうえ、移動だけで体力が削られていた。
今後心春が仕事をもらえるようになった時のことも考えて、芸能関係に精通している学校へ転校することを社長が提案してくれたのだ。
女子高には仲良くしていた友達もいたが、今以上に真剣に歌と向き合いたいと思い、転校を決断したのだった。
「森川さん、ネクタイはどうしたのですか」
「それが、結び方がわからなくて……」
おずおずとポケットから赤色でストライプ柄のネクタイを取り出した心春は、それを恨みがましく睨みつける。
「前の制服がセーラー服でしたので、ネクタイを結んだことがないのです」
「心春ちゃんは女の子なんだから、わからないのは普通だと思うよ」
優しくフォローを入れてくれる壮五の気遣いに胸がじーんとする心春。
先ほどまで二日酔いに頭を抱えていた大和が唐突に「イチ」と呼んだ。
「お前さん、結んでやりなさいよ」
「な、なんで私が！ ほかの皆さんだって結べるでしょう！」
「同じ学校に通うんだから、交流すると思ってやってやれよ」
忙しなく包丁を動かせながら、三月が言葉を挟める。
一織が頬を赤く染めながらも眉間にしわを寄せるのを見て、心春は慌てて口を開いた。
「だ、大丈夫です！もっとネットで調べたりして頑張ってみますので！ 私の努力が足りないだけなのです！」
一織は何も悪くない、と伝えたくて必死に言葉を紡ぐ心春を見つめたのち、皆は一織に向けてジトッとした視線を送る。
「あーあ、心春が可哀想」
「涙目じゃんか」
「イチを気遣って、健気だねえ」
「こ、心春ちゃん、僕が結んであげようか？」
「あーもう！ わかりました！ 私がやればいいんでしょう！」
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作者名：冬眞 | 作成日時：2021年7月3日 13時
