【アイナナ】リトルシンガー (ページ16)

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１５ song. ページ16

初めて入る男子寮は、女子寮とリビングの大きさは同じくらいで、インテリアはお洒落だが家庭的で素敵な空間だった。
　女子寮はどちらかと言えばモダンな隠れ屋カフェのような内装で、心春はとても気に入っていた。

「じゃあ、俺は夕飯の準備するから陸たちは心春の相手よろしくな」
「三月さん、僕も手伝いますよ」
「若い者の相手は若い者に任せて、お兄さんもミツを手伝いますか」

(あれれ。わたし、子供扱いをされている気がするのですが)

　ちょっと腑に落ちない心春だが、陸が「心春、こっちこっち！」とソファへ招いてくれたので、気にしないことにした。

　それから陸や環、ナギ、一織と一緒にトランプをして遊んでいたらあっという間に食卓テーブルには美味しそうな料理がずらっと並べられていて心春の口から「すごい、美味しそうです……！」と声が漏れた。

「コハルは私の横です！」
「じゃあ反対の隣は俺！」
「あーー！ナギっちもりっくんもずりぃ！」

　ナギに誘われるがまま食卓テーブルの前に座ると、陸がナギとは反対の席へ座った。そのことに怒ってた環だが「じゃあ俺はこはるんの前な～！」と彼女の目の前にどかりと腰を落とした。
　そんなやり取りを見てた大和が「若いやつは元気があっていいなあ」と年寄り臭い台詞を吐いて席に着いた。

「そんじゃあ、いただきます」

　大和のあいさつに続いて、皆で手を合わせて「いただきます」をした。
　メインの肉じゃがのほかにもほうれん草のお浸しやサンマの甘露煮、サラダが色とりどりに盛り付けられていて、どれも美味しそうで心春は迷ってしまう。
　そっと顔を上げれば、皆それぞれ美味しそうにご飯を食べていて「これ美味しい！」とか「こっちもうまい」なんて賑やかに会話が飛び交う。
　
　心春はいままで、ひとりしかいないリビングでご飯を食べてきた。テレビの音だけが無機質に響く、空間で。そんな生活を一年以上してきたから、もうなんとも思ってないと思ってたのに……温かなこの空間を目の当たりにして思い出した。

　目の前を見れば笑って見守っててくれる母がいた、あの光景を。
　「米粒ついてるよ～」って笑いながらも頬を拭ってくれた、優しい指を。

　慣れたと思っていたのに、気づいてしまった。
　
(ああ、私は今まで、どうしようもなく、寂しかったんだ)

　瞬間、頬を涙が一筋、滑り落ちていった。