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ブチッ、ブチッ、ブチッ、っと糸を無理に引き千切るような音が、もはやBGMとなっているマイカの悲鳴と警報音の中、微かに聞こえた。緩慢な動きでそちらに顔を向けた。
「さぁ、おいで、アイ」
優しい微笑でアイの手を引くセレン。その隣には、先程よりも大きくなっている暗闇が。空間の裂け目のようにも見えるソレはブチッ、ブチッ、と不快感のある音を鳴らしながら広がっていく。
「あの時に戻って、僕を助けてくれる?」
「分かった!」
アイは満面の笑みで即答した。そして、躊躇いもなく片手をその暗闇の中にずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶずぶ……
壊れた笑顔まま、アイの半身が暗闇に呑まれた時、ぷつっとマイカの叫びが止まった。虚ろな目がアイとセレンを捉える。
「誰? セレン、そいつはだぁれ? あぁでも大丈夫だよ私が殺してあげるだってセレンを助けるのは私だから私はセレンのものでセレンは私のもので私はセレンの事が大好きだからそいつをセレンのために殺してあげる殺してあげる殺してあげる殺し」
「違うよ」
呪詛のような言葉を吐き続けるマイカを止めたのは、アイだった。幸せそうな笑顔で断言する。
「セレンはあなたのものじゃないよ。それと私はあなたに殺されない。だって私が殺しに行くから。……やっと、セレンの役に立てるなぁ」
うわぁ、狂ってるよ、どっちも。正気の沙汰じゃない。……本当は、アイがこうなる前に何とかしたかったな……なんて。
アイが暗闇の中へ吸い込まれていく。誰にも止められないし、誰も止めようとしない。ボクも、もう諦めている。
「おい、お前ら、今すぐその魔法を止めろ!」
「言う通りにしなければ……」
本部から報告を受けて、目の前のものが原因かもしれないと考えた治安部隊員達が、アホらしい事にこの狂人達にまだ対話を試みていた。話が通じない事にいい加減気付かないのか。それに……
「もう遅い」
最後にアイの指先が暗闇に吸い込まれた。その瞬間。
___ッッ!!!
不可視で無力な衝撃波が館全体、いや、世界に広がった。
聴覚が失われたと錯覚するほどの静寂の中、時間が停止したかのように全てが動かなかった。
何かが壊れたわけではない。しかし、確かにソレは衝撃だった。精神を、存在を、揺さぶる波だった。
「はっ……はははっ」
そんな世界の時間の針を動かしたのは、歓喜の滲む笑い声だった。
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たまご(プロフ) - めっちゃ面白かったです!アスラ君、大好きでした! (2019年9月26日 7時) (レス) id: 4b6840f9b9 (このIDを非表示/違反報告)
寒極氷化(プロフ) - チェシャ猫さん» ありがとうございます(*^^*) アスラ君、好きになってもらえて良かったです! (2019年3月24日 2時) (レス) id: a49b6f3827 (このIDを非表示/違反報告)
チェシャ猫(プロフ) - 完結おめでとうございます!いやぁ、めでたしめでたしですね!!アスラ君最後まで大好きでした!お疲れ様でした!! (2019年3月23日 15時) (レス) id: 0582223455 (このIDを非表示/違反報告)
寒極氷化(プロフ) - なななさん» あなたの事は知ってますよー。コメントどうも! (2017年5月5日 21時) (レス) id: c03204db58 (このIDを非表示/違反報告)
ななな - すっごくおもしろいです!!!!! めつちゃ最高(*゚▽゚*)更新楽しみにしてまふ(( (2017年5月5日 14時) (レス) id: b05e83a60b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:寒極氷化(かんごく ひょうか) | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/orazu/
作成日時:2016年4月26日 0時