宝物 2

反面教師 ページ36

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日本人のお母さんと、今は顔もあまり覚えていない韓国人のお父さん。


韓国旅行に来たお母さんがお父さんにナンパされたらしい。


恋をして、母国を捨てて身一つで韓国に嫁いで、凄く大変だったけど、私が産まれてくれたから幸せだと、まだ幼い頃にお母さんが話してくれた記憶がある。


お父さんの不倫。
それが、両親の離婚と、あの時この国を去った原因。




日本に行ってからは、お母さんにも恋人ができたりして、お母さんの実家の祖母が亡くなってからはその人と３人で暮らした時期もあった。


俗世間では″複雑な家庭″で、さりげなく遠巻きに様子を伺われているのを感じながら学校生活を過ごした。


でも実際は多分、可哀想な子なんかじゃなかったと思う。
お母さんが連れてくる彼氏達は、幸運なのか、お母さんに見る目があるのか、皆良い人達で、よく想像されがちな虐待や暴言を吐かれることも無く、お母さんも結局再婚はせずに女手ひとつで一生懸命働いて私を育ててくれた。


只、

″恋愛至上主義″

お母さんのような女性をそう呼ぶのかもしれない。

恋人がいれば最高に幸せそうで、別れてしまうと毎日泣いて暮らし、食事も喉を通らなくなる。


その姿を幼い頃からずっと見てきたから、
心の中でずっと、

″私はこんな風に生きない″

と暗示をかけて生きてきた。


″恋″とか″愛″を嫌悪した時期もあった。


恋人ができても、どんなに好きだと感じても、決して依存するような事は無かった。


その度に安心してる自分がいて、

″大丈夫。私はちゃんと反面教師できてる″

そう確認してはホッとしていた。







「…………帰らないと……日本に……」


それしか言えずに無意識に逸らそうとした視線を、


「んっ」


突然迫ってきた唇に呼吸を奪われて強制的に戻される。


閉じ損ねた目に映る、お兄ちゃんの怒ったような、燃えるような瞳。


大きな体に閉じ込められて、苦しいくらいキスされて、幸せな筈なのに切なくて、胸騒ぎがした。




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