君が思い出すまで4【煉獄杏寿郎】

187.刺繍工場 ページ37

「いってまいります！


　夕餉の支度の前には戻りますね。」


「はい！お気をつけて！」


　花火大会から1週間が経ち、私は杏寿郎さんのことを

　考えないようにするために忙しくしようと、

　以前、宇髄さんから紹介してもらった

　刺繍工場のお手伝いに行くことにした。


　刺繍工場は煉獄家から歩いて20分くらいのところにあり、

　規模は小さく、従業員が8名ほどでほとんどが女性だ。



「…こんにちは。はじめまして。

　AAと申します。

　少しの時間ですが、今日からここでお世話になります。」


　挨拶をすると、奥から齢35くらいの


　高身長の男性がやって来て私に声をかける。



「はじめまして、Aさん。

　私は柳田吉次(やなぎだ よしつぐ)と言います。

　この工場の指揮を取っている者です。

　分からないことがあったら何でも聞いてね。」


　男性はそう言うと優しく微笑んで、


　足踏みミシンの使い方などを丁寧に教えてくれた。


　他の従業員の方々も優しくて、最初は緊張していたが、


　あたたかい雰囲気に心が落ち着いて行った。




　初日は覚えることがたくさんあり、


　頭に叩き込むことで精一杯だった。




　あっという間に夕刻になり、私は慌てて帰り支度をする。


　予定よりも遅くなってしまったなあと、考えていると、

　
　肩をトントンっとされ、後ろを振り返ると


　柳田さんが声をかけた。


「Aさん、遅くなってしまってすまないね。

　もう日も暮れてきてしまったし、今日は家まで送るよ。」


「いえ、歩いて20分ほどなので一人でも大丈夫です！

　今日はありがとうございました。」


「いや、女の子一人では危ないよ。

　ここの従業員の女性たちは、

　近くの宿舎に寝泊まりしているから問題ないけど、

　君はそうではないからさ。

　さあ、行こうか。」


　そう言うと、柳田さんは歩き出す。

　少し迷ったが、厚意を無下にするわけにもいかず…


「…では、お言葉に甘えさせていただきます。」



　煉獄家へと向かう途中、

　柳田さんとは他愛もない話をした。

　なんだか、そういう深すぎない何ともない話が

　今は心地が良くて…。


「柳田さんは、大人の男性という感じがします。」


「そう？ただ歳だけ重ねちゃっただけだよ。

　仕事に夢中になっていたら、恋愛なんて疎かになって、

　未だに独身だしね。」


「え！？そうなのですか！？」


「ははっ！露骨に驚きすぎだよ。」

　

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