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第19章 追憶に潜む二つの原点 01 ページ19

 いつもの、朝。


 
 いつもの時間にいつもの場所で、豪炎寺は水色を待っている。
 朝の心地よい風が吹き抜け、背中を預けていた木々が揺れる。木漏れ日がゆらゆらと揺蕩う中、先週から読み始めた単行本を片手に持ち、静かに目を走らせている。豪炎寺はその時間が好きだった。活字を追っている視界の中に、いつだって水色が入り込んできたからだ。

 いつもの道を通って、豪炎寺は学校へ向かっている。
 朝早いからか人通りは少なく、静かな時間が流れて暖かな陽が差している。歩く途中で幾度か隣に視線をやっては、元見ていた位置に視点を戻す。真っ直ぐな碧色の瞳を、豪炎寺はいつだって思い出すことができる。ぱらぱらと生徒の数が増えてきた頃、学校の近くで車から降りる鬼道と出会い、次の試合に向けて話をしながら共に登校する。

 いつもの順序で靴を履き替え、鬼道と別れ、豪炎寺は教室へ入っていく。
 がらがらと教室の扉を開け、まばらにしか居ないクラスメイトに挨拶をする。クラスメイトは豪炎寺の隣をちらりと見て、なんでも無かったようにおはようと言う。少しして円堂や木野が登校し、矢張りサッカーの話をしながら今日の授業の準備をする。豪炎寺はどこか穴がぽっかり空いたような、なんとも言えない違和感を抱えている。

 朝礼を知らせるチャイムが鳴って、生徒の号令で一斉に挨拶をする。担任の竹本先生がいつものように面倒くさそうに着席させると、渋々出席を取った。



「神崎は……今日も欠席か」



 神崎、と名前を呼ばれても、返事が戻ってくることはなかった。
 
 豪炎寺は振り返り、後ろの席を見た。
 不自然にぽっかりと空いた窓際の一番後ろの席。何も残っていないロッカー。そこにあった生活感は全て拭い去られてしまい、空虚な静けさだけが佇んでいた。豪炎寺は悲しげに目を伏せると、当たり前になりつつあった友人を思った。



 隣に居た筈の水色の姿は今日も、無い。



 第19章 追憶に潜む二つの原点

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彩夏(プロフ) - Aoiさん» 大変かと思いますが応援しています! (2022年9月11日 10時) (レス) @page24 id: 67c757144e (このIDを非表示/違反報告)
Aoi(プロフ) - 彩夏さん» 彩夏さま コメントありがとうございます。とても嬉しいです。本当にいよいよというところで、私も楽しみですしわくわくしています……。お待ちいただきありがとうございます。どうぞお楽しみにお待ちください。 (2022年9月11日 0時) (レス) id: f51011eb5a (このIDを非表示/違反報告)
彩夏(プロフ) - いよいよですね!展開が楽しみです! (2022年9月10日 23時) (レス) id: 67c757144e (このIDを非表示/違反報告)
Aoi(プロフ) - ヒマリさん» ヒマリさま 長い間ご覧いただき、そして応援してくださり、本当にありがとうございます。拙い文章ですがお楽しみいただけたら幸いです。随時更新していきますので、どうぞお楽しみにお待ちくださいませ。 (2022年7月15日 20時) (レス) id: 0783a9abb5 (このIDを非表示/違反報告)
ヒマリ(プロフ) - 続編おめでとうございます。ずっと前から応援していた作品なのでとても嬉しいです。これからゆっくり読み直しにいこうと思います。これからも応援していますので、作者様のペースで更新して頂けますと幸いです。 (2022年7月15日 20時) (レス) id: ba87716a36 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Aoi | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aika398/  
作成日時:2022年7月3日 2時

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